ソフィー・セルティウス & 鏡・月白

●『繋いだ手は暖かく…。』

 ――聖夜を彩る、涼やかな、蒼い光。
 ――夜闇を照らす、清浄な、白い光。

 二人はぎゅっと手を繋ぎ、夜空へと伸びるクリスマスツリーを見上げていた。
 イルミネーションに照らされた月白の横顔は、普段通りの落ち着いた表情。けれど、よくよく見れば、わずかに頬のあたりが緊張しているかもしれない。
 月白さんも照れているのかな、と……恋人の様子を盗み見つつ、ソフィーは思う。
「どうかしましたか?」
 チラチラと、自分を見ているソフィーの視線に気づいて、月白が振り向いた。問いかける声は穏やかだけれど、やはり隠しきれない照れが、語尾を微かに揺らしていた。
 でもそんなのは、きっとソフィーだから気付く事。
 いつも見ているから、気にしているから、わかってしまう。
「え、と、なんでもないよ……?」
 だから逆に、ソフィーが今ごまかそうとした恥ずかしさも、胸を満たしている幸福感も、月白には伝わってしまっているのかもしれない。そう思うと、繋がれた手が何だか熱をもってゆく気がした。
 はにかみつつ、イルミネーションに目を戻す。
「綺麗……見にきてよかったね」
 でもこれは、照れ隠しではない。素直に零れた言葉。
 月白も誘われるように同じ方向に目を移し、「本当、綺麗ですね」としばし眺めて、それから静かに微笑んだ。
「去年は家で過ごしたから、こうやって見る機会はありませんでしたね」
 細められた赤い双眸が、ソフィーを柔らかく見つめている。その笑みがあんまり優しくて、愛しいから……つい甘えたくなってしまう。
「手、あったかい……」
 さりげなく、身体を月白の方に寄せて、繋いだ手に反対の手をそっと添える。
「えへへ、寒いから……」
 ドキドキと高まってゆく心音に押され、そう続けた。
 月白は頷いて、擦り寄るソフィーを受け止めるように、身体の向きを微かに変えた。二人はますます近く寄り添って、ソフィーの頭が月白の肩に、コツンと当たる。
 呼吸を一回するくらいの間が、開いて。
 ふっと、月白の左手が、甘えるソフィーの髪を軽く撫でた。ほんのわずかな逡巡は、多分、照れたのだろう。まるで強く触れれば壊してしまうとでもいうように、ゆっくりと、繊細に、撫でてゆく。
「もう少しだけ見たら、帰って暖かいものでも食べましょうか」
 こくんと、月白にもたれたまま、ソフィーは頷いた。
 やがて、二人は歩き出す。身体は少し離しても、手はしっかりと繋いだまま。
 刻々と冷たさを増す十二月の夜気も、こうしていれば気にならない気がした。

 帰る前に、イルミネーションの写真を撮った。
 蒼と白、二つの光は入り混じりって、写真の中でもとても美しく輝いていた。



イラストレーター名:sasai