黒瀬・和真 & 琴月・ほのり

●『the holy night view』

 何度だって、伝えたい。
 白薔薇と赤薔薇がダンスを終えて向かったのは、未だ眠らぬ聖夜の街を見下ろす場所。
 きらめく星が、空と地上に広がる。
 はぁ、と両手を合わせて白い息を吐くほのりに、和真は傍の自販機で買ったばかりのミルクティを手渡した。
「大丈夫? 寒くない?」
「ありがとうございますぅ」
 へにゃりと破顔して白い指先でそれを受け取った彼女は、熱い缶を左右の手に行ったり来たり。
 コートを着込んでいるとは言えど、12月も終りかけの夜だ。
 少しふるりと肩を震わせた彼女の背後に、和真は静かに立つ。
 そっと腕を回して、壊さないように、優しく。
「こうしたら、少しは暖かくなるかな?」
 小さな彼女の身体が、すっぽりと和真の腕の中に収まる。
 ちょっと驚いて振り向いたほのりは、それでもじんわり届く温かさに頬を緩めて、空も地面もなくなったような幻想的な夜景へと視線を返す。
 冷たい夜気に慣れたのはスチール缶か、それとも温かさにほのりの指が落ち着いたのか。
 両手でミルクティを包んで、優しく甘いそれをひと口。
 ふと気付いて、もう一度彼を振り返る。
「……要りますかぁ?」
 傾ける、ミルクティ。
 彼は少し目を丸くして、それからやんわりと断った。
「僕は、こうしてるだけで充分だよ」
 こうして。
 大切な、大好きなひとと、一緒にクリスマスを過ごせるだけで。
 あなたの温かさを、こんなに近くに感じられるだけで。
 だから。
 だからひとつだけ、あなたにわがままを言うとしたら。
 和真は冷たい夜の空気を吸い込んで、静かに吐き出す。
「来年もこうして、一緒に居られればいいね」
 すると今度は彼女が、少し赤茶の瞳を丸くして。
「来年だけじゃなくて、ずっと一緒ですよぉ?」
 えいと差し上げた缶を彼の頬に宛がって、にっこりと笑った。
 何度だって、伝えたい。
 何度だって、誓いたい。
 何度だって、祈りたい。

 ──あなたの願いが、ずっと、私と一緒でありますように。
 



イラストレーター名:つかPON