●『未熟な恋愛模様』
「あ、雪……」 空から舞い散り始めた白い綿毛にプリケンはふと足を止めて手のひらをかざして空を見上げた。 「そうだな。随分手足が冷えると思ったぜ。こりゃ早く結社に帰らないとまずいな」 望月は荷物を抱えたまま動けず頬に貼りつく雪の欠片に顔を軽くしかめる。 「そうですね、急ぎましょうか」 今日はみんなでクリスマスパーティ。 2人はその買い出しに出ていたのだ。 「それにしても、たくさん買い過ぎちゃいましたね。……重いです。って、あー、もっちー、先行かないで下さいー!」 気が付くと望月とプリケンの距離は開いており、プリケンは慌てて追いかける。 やっと追い付くと軽く溜息を吐き、引き離されないようにのろのろと彼の後ろを歩く。 それにしても冷えた手に荷物のひもが指に食いこんで痛い。 時々袋を持ち直しつつ手を吐息で温める。 すると望月が不意に歩みを止め、プリケンに手を差し出した。 「へ……?」 急に差し出された手にプリケンはキョトンとしながら望月の顔を見上げる。 「とろいんだよ。ほら、手出せ! ちんたらやってると、パーティできなくなっちゃうだろ!」 「え、あ……っ」 望月はプリケンの答えを待たずに引っ手繰るようにその手を掴むと、プリケンを引きずるように足早に再び歩き出す。 氷のように冷えたプリケンの手に望月の体温がしみて今度はチリチリと燃えるように熱い。 でもどちらかと言えば心の方が熱い。 キツイ口調からは読みとりにくい彼の優しさが、手を、触れ合う皮膚を通して伝わってくるような気がして鼓動が速くなるのを感じる。 この鼓動の動きが脈でばれないか心配になるが、強く握りしめられた手は離してはくれなさそうだ。 彼はとてもぶっきらぼうで他人から誤解される事も多いけど、私はそんな彼の事が好き。 (「このままずっと一緒に居れたら良いな」) 悲しい別れはもうしたくない。 ふと過去の思い出が脳裏をよぎるが、そんなものもこの手の温かみが振り払ってくれるような気がした。 今日はクリスマス。楽しい事だけ考えて過ごそう。
俺にとってプリケンは放っておけない奴。 振り向けば今もほら、買った物落としそうだし転びそうだし、寒さで真っ赤になった指を吐息で温めている。 (「……あーもう」) ひったくるようにプリケンの手を掴むと氷のように冷えていた。 「手冷たいな……ちゃんと普段手袋とかしてんの?」 こう言うツンデレっぽい言い方しか出来ないのかと自己ツッコミする。 こいつは放っておけない。でもどちらかと言えば好きなんだと思う。 この『好き』が男女のそういうものかは今の自分には分からない。もしかしたらこの先気持ちが変わる可能性もあるが、今はやっぱこうやってこういうのも見てやんないとダメかなぁとも思ってしまう。 そんな事を考えながら歩いていると、プリケンが俯いたまま小さな声で呟いた。 「これからは手袋するです、ありがと……」 不意に鼻先がツンとしたが、それは寒さのせいだと思いたい。
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