久我屋・明彦 & ハディード・ザカラ

●『来年も、その先も』

「ふー。ふふ、とても幸せで、ご馳走も美味しいので食べ過ぎてしまいました……」
 くすり、青い目を細めて、ハディードは腹部をさすりながら、ソファに寄りかかる。
 視線を上げて、ね、と視線で同意を求めてくる彼に、明彦も苦笑を返す。
 ふたりとも料理が出来るからと、つい作り過ぎてしまった、ささやかなクリスマスパーティのディナー。
 ふたりで大切な時間を共有しながら作った料理、食べる料理を、置いておくことは出来なくて、つい、食べ過ぎてもしまった。
「でも、折角のクリスマスだからな。これくらい贅沢をしてもいいのかもしれない」
 明彦がそう言うと、大きな子犬のような相手は、はい、と本当に嬉しそうに、笑う。
 それを見ると、なにかをしてあげたいと、そう──……。
「そうだ、ハディ……何か願い事はないだろうか?」
 プレゼントよりも、もっと、なにかを。
「え……お願い事ですか?」
「そう、その。肩を揉んでやるとか、皿洗い、とか……」
 語尾が消える。どう考えたって、クリスマスらしくはない。なにか、もっと、そう、特別な。
 困ったように視線を泳がせた明彦に、ハディードは手を伸ばして、そっと彼の頬を指先で掠めた。
「じゃあ、あき、膝枕をしてくれませんか?」
「……膝枕? えっと、それは……」
 ほんの少し、目許が赤らむのを感じる。
 正直言って、恥ずかしい。ああ、でも。
 ──特別、な。
(「ふたりきりなら、いいよな」)
 こういうときくらい、沢山甘やかしてやりたい、から。
 ソファの上、座る位置を少しずらして、彼の頭が自らの腿に乗るように調整して。
 失礼します、だなんて律儀に言って頭を預けてきた相手が、子供みたいに無邪気に破顔した。
「ふふ、あきの膝枕、大好きです」
「……なに言ってんだ」
 ふわふわの青みがかったように見える灰色の髪を撫でて、自然と表情が和らぐのを感じる。
 すい、と伸ばされた手。光る指輪のはまる指先に、やれやれと明彦は自らの左指を絡めた。
「……手、繋ぎたいのか? ……仕方ないな」
「あきの手が、お留守だったみたいなので。繋いであげます」
「なに、を」
 離そうとした途端、ぎゅ、と力を篭められる。足りなかったのは、お互い、だったろうか。
 そう思うと気恥ずかしく、それでも、淡く笑みの零れる口許は隠しようもなく。
「来年も、その先も……ずっと一緒に居ような、ハディ」
 額にひとつ、優しいくちづけを落とす。
 くすぐったそうに笑った彼は、当たり前のように、甘く囁いた。
「ずっと一緒ですよ、……明彦」



イラストレーター名:大雪基地