●『はじめてのおつかい、はじめてのくりすます』
学園から戻った稚都世と臥待に、稚都世が『兄上様』と慕う人からお使いを頼まれた。 『大体の物は揃えたけど、他に好きな物食べたい物があれば買っておいで』 実は稚都世も臥待も、千年前生まれの来訪者。 現代の事は進行形で学ぶ最中、クリスマスも二人で商店街へのお使いも初めての経験だ。 「お任せください、兄上様」 稚都世はそのお使いを心よく引き受け、臥待を誘う。 「参りましょう、臥待様」 「ええ」 微笑んで応じた臥待に稚都世もまた笑顔になる。 クリスマスも楽しみだけど、稚都世は何よりも臥待と二人でお使いな事が嬉しくて。 手を繋いで、商店街へと繰り出した。
商店街に到着してからはあっちこっちへ。 「臥待様、臥待様!」 稚都世は目についたモノ、気になったモノを逐一臥待に報告した。 熱々の鯛焼きを一つ買って半分こして食べたり、丸のままのターキーを見て驚いたり、サンタを見つけてはしゃいでみたり。 人の多さに慌てたりしながら……離れないように、時折手の力を強める。 やや引っ張り回されているようにも見える、稚都世と同い年には見えない大人びた雰囲気の臥待ではあるが、クリスマスを待ちわびていたのは彼女も同じ。 途中で桃と苺が好きな臥待は苺と桃缶を購入し、それぞれを大事そうに持ってお使いを続けた。 商店街の中、広場で美しくクリスマスらしく装飾されたツリーを見つけた。 今回も、先に見つけたのは稚都世だった。 「臥待様臥待様、ツリーですよ! きれいなのですよー!」 目をキラキラさせて足を速める稚都世に臥待は少しばかり苦笑を浮かべる。 「稚都世殿、そんなに急いでは転んでしまいましょうに」 「大丈夫なのですー!」 ツリーの間近まで足を進め、近くから見上げた。 光るイルミネーションは星が降ってきて、このツリーを彩っているかのようだ。 だが……ツリーが余りにも綺麗で、ふと臥待は不安になってしまった。 ――『今』此処に稚都世といるのは『夢』かもしれないと思ってしまう。 そんなことを思ってしまった時……。 「来年も、その次も……オレは臥待様とお使いに来たいのです」 臥待の不安を追い払うように稚都世は言った。 その言葉に臥待は稚都世に視線を向ける。 稚都世は真っ直ぐに臥待を見ていた。 視線と言葉と、繋いだ手と……その温かさ。 今が『現実』なのだと、証明してくれているようで。 「……本当に、臥待は果報者にございます」 安堵と感激と、どちらかわからないまま……もしかしたら両方の思いで、臥待は笑顔になる。臥待の笑顔に、稚都世もまた笑顔を浮かべた。
――二人の買って来た桃缶と苺は、クリスマスに苺サンタと白桃ムースになった。 それらはおいしくいただいて『モノ』としてはなくなってしまったけれど、過ごした『時間』と『思い出』は残る。 初めてのクリスマスの、初めてのお使い。 ……『約束』もまた、二人の中に刻まれた。
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