●『Silent Night〜二人で過ごす夜に〜』
「もきゅ〜」 その声は、不満と理不尽さとが混ざっているよう。 「……えっと、章姫。ごめんなさいね」 謝罪の言葉をかけつつ、燐は自分の使役ゴーストを……モーラットの章姫をカードに戻した。 「……章姫には、少し悪い事をしたかな?」 リビングにて。燐の隣に座る、金髪青眼の青年が問いかける。 彼……イクスの言葉に対し、燐は返答した。少しの罪悪感、そして多少の期待感を混ぜた口調で。 「はい。でも後で、埋め合わせをしますので」 そう言いつつ、燐はイクスを見つめた。 イクス。イクス・イシュバーン。 魔剣士にして……燐の、大切な人。 やっぱり、二人で過ごせるのは嬉しいし、それに……。 それに、幸せだから。二人きりで過ごせるこの時間こそが、とても幸せだと思うから。 自分だけでなく、きっとイクス様もそう思っているだろうから。 ごめんなさい章姫。私は今夜、ちょっとだけわがままになります。 イクスに視線を注ぎながら、燐は、心の中でごめんなさいと手を合わせていた。
「それでは……」 イクスから、燐は空のグラスを差し出された。 「せっかくだから、乾杯しようか?」 「そうですね」 そのグラスを、燐は受け取る。イクスはそれと自分のグラスに、ジンジャーエールを注ぎ入れる。 かちり。 グラスとグラスが合わさり、飲み物を口にする前に……燐は言葉を口にした。 「改めて、メリークリスマスです」 「うん。メリークリスマス」
「……それで、あの時の顔ときたら……」 「……まあ、そうなんですか? そこまでは知りませんでしたよ」 「……そういえば、あそこに遊びに行った時……」 「……それでしたら、私も……」 他愛ない、けれど尽きる事のないおしゃべり。 しかしいつしか、話題は尽きつつある。 「……」 「ん? どうしたんだい?」 「……もう、あれから一年なんですね」 そう。もう一年が経つ。 昨年のクリスマスから、一年。二人で遊び、様々な思い出を紡いでいった。 「……イクス様。来年は、どんな年になると思いますか?」 「さあね。来年になってみなきゃわからないさ。けど……」 「けど?」 「けど……これだけは言えると思う。何があっても、何をしても楽しいだろうし、何が起こっても……乗り越えていけると、ね」 僕と君、二人ならばね。最後にそう付け加える。 二人なら。 響く。 その他愛ない、けれど大切な言葉が、胸中に響く。思った以上に、強く響き渡る。 燐は返答しようとした。が、なぜか言葉が出てこない。 いや、言葉は要らない。こうやってお互いを見つめるだけで‥‥。 伝わってくる、彼の言いたいことが。 伝わっていく、自分の言いたいことが。 互いの距離が、徐々に近づき……二人の唇は、一つになった。
冬の夜。その部屋は、二人の最も暖かい場所。 愛する二人が、溶けあい、一つになっていく。恋人の暖かさを、燐はその晩……強く、激しく、そして優しく感じ取っていった。
| |