●『クリスマスより少し先に目を向けると』
「うぅーん……」 ありあは一人、唸り声を上げていた。頭を抱え、銀の髪をくしゃりと自分自身でつかむ。 「……うぅーん……」 金の目を閉じて、自分の思考に集中させる。 ――世はクリスマスで盛り上がっているが、後一週間もすれば年が明けるわけで。 ……それの準備も欠かすわけにもいかないわけで。 ありあにも、その『年明けの準備』という苦労が押し寄せていた。 それは、実家からの手紙に対する返事だ。 自分や妹の過去を振り返れば、どうしても一般的な返事をできない。だけど返事はしないと面倒なことになる。 長姉としてどういった『返事』が適当か困っていると、人の気配を感じた。 ぎゅっと閉じていた目を開いてみると、いつの間にか宗司郎が現れた。 「どうしたんだ」 その問いに、ありあは宗司郎を見上げる。 素直に「実家への手紙に何を書けばいいのか解らない」と答えた。 心底困ったような、けれど偽りのない顔をしたありあの答えに宗司郎は軽く首を傾げた。 真っ直ぐな視線で……『困ってます』と書いてあるようなありあの顔に宗司郎は口を開く。 「……自分が思っていることを正直に書けばいいのでは?」 宗司郎の答えにありあは大きな目を瞬かせた。 そんなありあの様子に、宗司郎は言葉を重ねる。 「家族なのだから、遠慮する方が逆にまずいだろう」 宗司郎のアドバイスにありあは視線を一度手元に落とした。 もらった手紙と、真っ白なままの便せんと。 『……自分が思っていることを正直に書けばいいのでは?』 ――先ほど受けたばかりの、宗司郎の言葉と。 『家族なのだから、遠慮する方が逆にまずいだろう』 自分の中で繰り返し、ありあは「ふむ」と一人頷いた。 宗司郎のアドバイスを受け、ようやくありあも吹っ切れる。 ぎゅっとペンを握った。 思ったままを、つづる。……最初は少し、手が震えた。
何とか手紙を書き上げたありあは思わず「よしっ」と小さく呟いた。任務完了、だ。 さあポストに投函! という時、ありあはふと気づいて宗司郎に視線を向けた。 礼儀正しい彼らしく、ありあの手元をじろじろ見るような不躾な真似などしなかった。……けれど、宗司郎はそばに居てくれた。 「あー、この後予定ないんだったらどっか飯買ってきます? この時間帯ならケーキやチキンが大安売りだろーし」 意識してそうしたわけではなかったのかもしれない。 ……それでも宗司郎は、ありあのそばにいて、共にいてくれたから。アドバイスをくれたから。 ありあの問いかけに宗司郎はゆるゆると瞬いた。ふと、目元と口元を綻ばせる。 「――ああ、そうだな」 穏やかな宗司郎の顔に、ありあも意識せず笑顔になる。 「それじゃあレッツゴー!」 まずはポストに! と封筒を掲げるありあに、宗司郎は再び黒い目を穏やかに細めた。
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