霧雨・慊人 & 志方・綾

●『Beside 〜特別な一日〜』

 街は、クリスマスということもあり、いつもより賑わっていた。
 慊人は普段と違うカジュアルな装いで、人の波に流されぬようにとしっかり眼鏡もかけている。
(「少しでも楽しく過ごせるように」)
 そう考えながら隣の綾を見おろした。
 普段と違うスタイルだが、とても可愛らしく、慊人は何となく特別を感じて、照れ混じりの笑みを浮かべる。
 綾は自分の見慣れない姿にそわりとしていた。
 いつもは和装だが、今日はすこし気分を変えて洋服にして眼鏡をかけてみた。
 普段はアップにしている髪を下ろしたせいか、ふわりふわりと歩くたびに毛先が揺れる。
(「何だか別人になったみたい、なのです」)
 落ち着かないような、心が浮き立つような不思議な気分だった。
 だがそれは、きっと普段と違うのが自分だけじゃないから。
(「慊人さんも普段と違っていて今日はいつもと違う格好良さなのです」)
 今日が特別な日であると感じて、綾は照れつつもそっと微笑む。
 慊人は、逸れない様に綾と手を繋いで、ざわめきの中を歩いた。親子や友人同士、カップルなどの行きかう人々も、どこか楽しそうな表情を浮かべている。
 まるで、街全体が幸せな色に染まっているようだった。
 二人はウィンドウショッピングをしつつ、ふと広場の一角に目が留まった。
 そこには、綺麗に飾られた大きなクリスマスツリーがある。
「折角だから……」
 慊人がそう言うと、近くで見たいと思っていた綾は嬉しそうに頷いた。
 二人で側まで行き、輝くツリーを見上げる。
 慊人はそっと綾の肩を抱き寄せつつ、その見事なツリーをじっくりと眺めた。
 抱き寄せられたことにも気付かず、綾はただただ圧倒され、きらりきらり輝くツリーのように瞳を輝かせる。
 その横顔を見つめながら、慊人はそっと願う。
(「――この表情が曇らない様、傍で護りたい」)
 すぐ傍らで、目と表情を煌かせる綾に込み上げるのは愛おしさだった。
 綾は、慊人を見上げて微笑み、ふと抱き寄せられている事に気付く。
 意識すれば、すぐ傍に慊人の温もりを感じ、少し照れて頬を染めた。



イラストレーター名:十重