●『「熱き聖夜バトルっス!」(熱いの龍さんだけですし…)』
こたつにみかん、眼鏡にドテラ。炯はそんな完全部屋仕様の装備に身を包み、一人頬杖をついてクリスマスの夜を過ごしていた。 「あー、なんなんでしょうねあれ。浮かれ面日本選手権ですか。はいはい優勝おめでとう、そこがテレビの中で命拾いしましたね。……はぁ」 炯が薄目でぼんやりと見ているのは、テレビに映るクリスマスカップル特集の出演者達だ。腕など組んで無駄に幸せそうで、これで生放送だというのだから、控えめに言えば彼らは今すぐ撤退を行うべきである。 と、下宿の扉からゴンゴンとうるさいノック音が聞こえた。炯が返事をする前にそのドアを開け、招く前にずかずかと上がりこんできたのは、一人身解放戦線の徴兵担当者ではなく、親友の龍之介だ。 「おおっス! 自分暇なので来たっス! こたついいっスか?」 そう言った龍之介は、炯が勧める前にこたつへと足を突っ込んだ。この寒い中をランニング一枚で踏破してきたらしく、その総身は激しく火照り、下手をすると蒸気を吹いていそうで、印象的には装いに反し暑苦しいという他にない。 「ああ、龍さんこんばんは……。何か御用で――」 「花札もってきたっス! 炯のみかんをかけて、いざ勝負っス!」 「――余ってると言った覚えは……はぁ。まぁ他にする事もないですしねぇ……」 炯は渋々と、天板にビニール袋の中のみかんをぶちまけた。二人に同数のみかんが渡るように配りつつ、どのルールで遊ぼうかと考える。 「じゃあみかんの奪いあいですし、ポカでいいですかね」 「うっス! あ、自分こいこいも行けるクチっス!」 「……ああ、それは以前私が龍さんをボコにしたゲームですから、別のにしておきましょう」 「恐縮っス! あ、シャッフル手伝うっス!」 かくして、聖夜の片隅の更に奥にて、あらゆる名誉と栄光から無縁の、孤独な男二人の戦いが始まった。
「予想通り過ぎてつまんないですねぇ……。龍さん、後がないですよ」 「まだっス! 次からが本気の本番っス!」 数十分後、勝っても嬉しくない花札合戦の戦況は、龍之介があまりに雄弁な表情の持ち主であったため、炯の圧勝に終わりつつあった。 「じゃあ、みかん全部無くなった方は……罰ゲームで恋バナ披露とか……」 「おお! それは難題っスね! 余計負けられないっス!」 「ああ、うん、やっぱ別のに」 炯は虚しさにため息をつく。そもそも、この男の恋バナを聞いて自分はどうするというのだろうかと、炯は自分の茹で上がり具合に軽く絶望した。 「――じゃあこれで、自分の上がりで、終了で」 「いーや、まだっス! みかんはまだ1個残ってるっス!」 「ああ、うん、そうですね」 「ついでにベットを上げるっス! 取り出しますはお徳用チョコ一袋! これをかけてリターンマッチっス、炯!」 「ああ、うん、どうぞ龍さん」 テンション高く再戦を望む龍之介に、炯はやれやれといった表情で向き直る。 ……この夜は、無駄に長くなりそうだ。
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