●『「貴方」「貴女」とずっと一緒に寄り添いたい』
イルミネーションに彩られた街道を並んで歩くひと組のカップルがいた。 侑とマリアだ。 今日はクリスマスイブ。運良くオフが重なった二人はデートを兼ねて年に一度の大イベントに華やぐ繁華街へと足を向けていた。 「侑」 「え、何?」 無言で歩いていた侑はマリアに袖を引かれてハッと顔を上げる。 「さっきから黙ったままだけど、調子でも悪いの?」 「違うよ、ごめん大丈夫。ただ、マリアとこうやって二人きりで過ごすのって久しぶりだなって思ったらどうしたら良いか分からなくなっちゃってさ……」 「ふふ、今更デートくらいで緊張する間柄でもないでしょ」 「まあそうだけど」 「それにしても、今年は普通のクリスマスが送れそうで良かったわ。去年は受験もあったってのにナイトメアの襲撃まであって大変だったから」 「そういえばそうだな。あの時はどうなるかと思ったけど、お互い無事に乗り切れてよかった」 侑は去年の惨状を思い出し、苦い笑いを漏らす。 「うん。だからさ、こうやって二人で過ごす時間はとっても大切なの。だって、いつ永遠に離れ離れになるか分からないし、ね……」 マリアはそう言って侑の腕を掴む手に力を入れる。 「マリア……」 マリアの言葉にハッとする侑。 そう、自分達は常に死と隣り合わせの戦いを日々繰り広げている。 隣で今日笑っていた仲間が明日も変わらずそこにいるとは限らないのだ。 それが恋人であっても。 「さあ着いたわよ」 「あっ」 マリアに促されて足を止めると、見上げる程の大きなクリスマスツリーが眼前にそびえ立っていた。 今回の見所なだけあってモミの木の大きさもそうだが豪華なオーナメントとイルミネーションに思わず息を飲む侑。イルミネーションに照らし出される無邪気なその表情。 普段は大人っぽく振舞っていてもマリアもやはりまだ二十歳前の少女なのだ。 (「この笑顔を守りたい」) 侑は溢れ出す愛しさに身を任せ、気がついたらマリアを強く抱きしめていた。 「ゆ、侑?!」 急に抱きしめられ慌てるマリア。抱きしめてる侑からは見えないが、きっとその顔を驚愕に染まっているだろう。触れ合わせた頬の体温が上昇していくのを感じる。 そして侑は彼女を抱きしめたまま震える声で伝えた。 「好きです。誰よりも」 積極的な告白に息を呑むマリア。 「……ずるい。こんなタイミングでそんな事言われたら、もっとあなたの事が好きになっちゃうじゃない」 「じゃあ、もっと好きになってください。俺ももっとマリアの事、好きになるから」 侑の言葉に思わず瞳をうるませるマリア。侑はゆっくりと身を剥がしてマリアと向き合うと囁くように告げた。 「メリークリスマス。来年も、この先も同じクリスマスを迎えよう」 「あ……」 そう言ってマリアにそっと口付けた。 そして二人はキスをしながら願った。 この時間がずっと続きますよに、と……。
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