●『良い男にサンタからの素敵な(地獄の)プレゼント♪』
聖夜のプレゼント。 「……うむ、なんと甘美な響きじゃろう。妾を想う殿方へ、妾が自身を贈るのじゃからの」 ハートマークを周辺に飛ばしつつ、彼女……菫は、そこに潜み続けた。 菫は、期待に身体をふるわせつつ待っていた。鋼鉄より強靭な筋肉の身体ではあったが。
両想いの男女。ならば互いに愛し合い想い合う事は必然にして当然。 そして今宵は聖夜、クリスマス。菫も当然、プレゼントを贈る事には余念がない。 それは、自分自身。いわゆる『プレゼントはわ・た・し♪』。 「……きゃーきゃー、妾ってばなんと破廉恥な♪ しかし、乙女は好きな殿方の為には、どんな事でも行えるのじゃ! 待っててたもれ、従兄様♪」 (勝手に)作っといて良かった、彼の部屋の合鍵。 「くふ♪ これぞ、合鍵ならぬ愛鍵じゃ♪」 と、恋する乙女は準備を整え、それを実行に移すことに。
黒髪に金の瞳。モデル顔負け、というか実際モデルやってる美青年が、桜の目前で眠っている。 蓮。それが彼の名前。そして菫の想い人。 今宵はクリスマスだが、興味を覚えぬ彼にとっては普通の日。モデルの仕事の疲れのためか、ぐっすりとベッドにて眠っている。 そんな彼の隣に、菫は巨大な靴下に裸になって入り、添い寝していた。服はちゃんと畳んで近くに置いてある。乙女のたしなみ、当然である。 サンタ帽も忘れず、後は彼が起きるのを待つだけ。 (「今宵も従兄様はカッコいいのじゃ♪」) と、ワクテカしつつ乙女は待っていた。ハァハァという吐息が、巨大な獣のそれっぽかったのはおいといて。 「……」 気配を感じ取り、目覚めた蘭。 「メリークリスマス♪ 妾がプレゼントなのじゃ♪」 それに対し、にこやかな笑顔を向ける菫。 が、蘭は固まっていた。当然だろう、目覚めたらすぐ隣に、巨大な靴下に入った筋肉の塊が添い寝してて、しかもそれが笑顔で見つめていたら、誰だってそーなる。彼もそーなる。 「……薫ちゃん?」 ようやっと頭が動きだし、蘭は……状況を認識した。 「はい、なのじゃ♪」 「はい、じゃあないよ。あのね薫ちゃん」 半身を起き上がると、蘭は言い聞かせるようにして言葉を放った。 「君は女の子だろ。嫁入り前の女の子が、そんな格好してはだめだよ……」 「嫁入り前? では! 従兄様は妾をお嫁さんに!」 蘭の言葉を勝手に解釈し、恋する乙女は蘭に抱きついた。 「嬉しいのじゃ……もっと強く、抱きしめてたもれ……」 ああ、愛しき人と結ばれた、これ以上の嬉しい事はあるじゃろうか……♪ しかし、第三者がもしもここにいたら。目前の状況は、恋人が抱擁しているシーンではなく、片方が片方にベアハッグを仕掛けているようにしか見えなかった。 強く抱きしめられ、蘭からは肋骨のきしむ音、ついでになんか折れたようなボキボキいう音が響く。 息もできず、意識を失う蘭。 「従兄様……♪」 そんな彼を、恋する菫はさらに強く抱きしめるのであった。
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