藍原・友環 & 今岡・治子

●『黄昏色の君と変わらぬ誓い』

 夕刻、黄昏時。
 日が徐々に傾き、地平線に沈みそうなひと時。ホールは夕焼け色に染まり、人気が無い事もあってどこかもの悲しさを漂わせている。灯りもほとんどが落ち、じきに夜の暗闇が帳を下ろす事だろう。
 そんな中、ホールの窓際にて。友環は、沈みつつある太陽を見つめていた。
 その手にあるのは、持ち主不明のショール。落ち着いた上品な色合いは、持ち主の趣味の良さを連想させる。
「あら……藍原さん?」
 持ち主が現れた。忘れ物に気づき、それを探しに一人の少女がやってきたのだ。
「……ああ、やっぱりな」
「え?」
 窓際に歩み寄ってきたのは、治子。
 彼女はまだ、パーティー時のドレス姿。リボンでまとめた髪型が、いつもとは異なる雰囲気を醸し出している。そのリボンの色は、友環が今手にしているのと同じそれ。
「このショール……色目がリボンと同じだから、そうじゃないかと思った」
 そう言いつつ友環は、ふわり……と、彼女の肩へショールを掛けた。
「……ありがとう、ございます」
 はにかんだような、安堵したような笑顔を浮かべ、それを受け取る治子。その笑顔を見ると、友環の顔にもつい笑みが浮かんでしまう。
「何を、していたんですか?」
「催しの後の、空気を堪能していた……という所かな」
 治子の問いに、視線を夕日に向けつつ、彼は答えた。
「……にぎやかな催しの後の、こういう空気。嫌いじゃあないからな」
 おっと、もちろん忘れ物の主を待ってもいたよ。思い出したように、照れくささを隠さんと付け加える。
 ふふっと、治子の小さな笑いが聞こえてきた。

「でも、ちょっと物悲しいですね」
 治子もまた、夕日を見つめてつぶやく。
「ああ。夕日の赤色、黄昏時の色は、どこか寂しさが感じられる」
「一人では、もっと物悲しくなりません?」
「いや……俺もそろそろ引き上げる。主不在のショールも、主の手元に戻った事だしな。それに今岡も、雛森たちが待ってるんじゃないか?」
「あ、いけない。そういえば……」
 小さく笑い、彼女は相槌を打った。
「それじゃあ、藍原さん。また……」
 そう言って離れようとする治子に対し……。
「待ってくれ」
 呼び止めた。
「はい?」
「……メリークリスマス、今岡。それと……」
 慌ただしくて、叶えられていない状態。だから、その事を口にするのもどうかとは思う。
 だが、それでも……口にすべき。いや、口に出して誓いたい。
 すうっと、息を吸い……友環は、厳かに言葉を紡ぎ出した。

『お前の視た未来を、変えて戻る』

 そうとも。俺は誓おう。
 お前が、お前の望む幸せの中で。
 微笑んでいられるように。



イラストレーター名:高村かい