●『誓い合う』
「今日も楽しかったなぁ♪」 「そうだな」 アマチュアながら舞踏家としても活躍する莉々はリズミカルに足を進めた。その背を守るように、桃もまた一緒に歩いていく。 その最中、公園が目に付いた。 「あ……ちょっと寄っていかへん?」 二人で過ごしたクリスマス――もう少しだけ、一緒にいたい。 そんな思いがあった。 莉々の誘いに桃は青い目を細め、「ああ」と頷く。 空を見上げ、莉々は満天の星に手を伸ばす。 きんと冷えた空気に磨かれるようにきらきらと瞬く星。吐く息が白く染まる。 ふいに莉々の背後にいた桃が莉々の首に柔らかく自分のマフラーを巻いた。 温かいと思った次の瞬間、もっと温かくなる。 ――体温が、共有される。 莉々にマフラーを巻いた桃は、そのまま後ろからぎゅっと抱きしめた。 突然の事で声も出ず、莉々は固まってしまう。 共有される体温に、触れる箇所からどんどんと体温が上がっていく気がした。 腕の中で少しばかり固まってしまっている莉々の様子に、桃はこっそり笑みを浮かべる。莉々はそんな桃の様子に気付かないまま、「も、桃くん?」と呼びかけた。 微かに、声が震えた。それは、寒さのせいではなく。 「――莉々」 呼びかける声と共に、莉々の背後から抱きしめる桃はおもむろに莉々の左手をそっと持ち上げる。冷えてしまった手を温めるように一度包み込んだ。 柔らかく撫でるようにして薬指にそっと、指輪をはめる。 「――これ……」 はめられた指輪を見て、莉々は声を上げた。 いつの間につけていたのだろうか、桃の左手にも莉々とお揃いの指輪がはめられている。 指輪は、細いシンプルなシルバーリング。婚約指輪としてホワイトデーにプレゼントされた物だ。 「――改めて」 莉々の耳元で桃の声が響いた。 「結婚しよう、な」 桃の言葉に対する答えは、肯定しかない。 返事をしようと口を開きかけた瞬間、「うぃっくしゅっ」と桃がくしゃみをした。
「――何も……今、出なくてもいいモンだが」 軽く鼻をすすりながらぼやく桃に莉々は思わず笑ってしまう。 「……ふふっ」 今までのロマンチックな空気が薄れてしまった。 けれど、繋いだ手は確かで、触れる体温も確かで。 「結婚、しようなぁ」 そんな莉々の返事に少々気まずそうな顔をしていた桃もまた、笑う。 その日は『いつか』。けれど、『絶対』に。 この指輪に誓う――。
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