●『聖なる夜にふたりで』
窓の外には雪がちらつき、あたりを少しずつ雪景色へと変えていく。 ホワイトクリスマスと呼ぶにふさわしい夜であった。 リースやツリーで飾られた、クリスマス色に染まった温かな部屋。和やかな雰囲気で談笑するのは、一組の恋人たち――ヘイゼルと巫斗である。 「お茶でも淹れようか。ちょっと待っててくれ」 そう言葉を残して、巫斗は立ち上がりキッチンへと消えた。 しばらくして、二人分のマグカップを持った巫斗がキッチンから戻ってくる。 「今日は寒いからな……はい」 お揃いの白いマグカップ。注がれた琥珀の液体は、揺らぐたびにキラキラと光を反射していた。 「……ん。ありがとう」 巫斗がそっと差し出すカップを、ヘイゼルが微笑みながら受け取る。短い動作ややり取りの中にも、二人の仲睦まじさが見て取れた。 ヘイゼルはハーブティーをこくりと一口飲む。 「おいしいよ、巫斗」 「そうか、少しは淹れるのが上手くなったようでよかった」 ヘイゼルにおいしいお茶を飲ませてやるため、うまく淹れる方法を巫斗は色々と勉強していた。 彼らが住んでいる『百華荘』では様々な薬草が育てられている。 それも理由のひとつではあるが、何よりもハーブが好きなヘイゼルを喜ばせたいというのが一番大きな理由であり、彼の本音だった。 「ヘイゼルに喜んでもらえるとうれしいよ」 「僕も巫斗が紅茶を淹れてくれたことが嬉しい……」 ふわりと微笑むヘイゼルに、つられるようにして巫斗は口元に笑みを浮かべる。 ともにいられる幸せをかみしめる二人。寄り添いあって過ごす時間を味わうように、穏やかな談笑は続いた。 二人の間にある感情には、一般的な恋人同士とのそれとは違うものが含まれているのかもしれない。 それは長年連れ添った夫婦か、あるいは愛しい我が子の成長を見守る親か。 いずれにせよ、彼らはともにすごし、そして互いの愛情を感じることができる。 彼らは、それだけで充分に思っていた。 「そろそろ、夜も遅くなってきたな……」 壁掛け時計を見やり、巫斗は呟くように言う。 「夜更かしは体に悪いし……もう寝ようか?」 「……うん」 ヘイゼルは小さく頷き、巫斗の肩口に額を寄せた。 夜は、まだ長い。恋人たちのクリスマスは、まだ始まったばかりである。
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