●『ひとをあいするということ』
キャンドルの灯りで神聖な色合いに照らされた玲音の部屋。 「メリークリスマス」 そう言って、撫子と玲音はジュースで乾杯した。 テーブルの上に、玲音が作った料理が並べられると、撫子は瞳を輝かせた。 「わぁ、美味しそうですの」 サラダやスープ、肉料理からデザートまである。 どの料理も、なかなか手が込んでいるようだった。 「玲音さん、すごいですの」 なにより、こういった料理は大切な人と食べると、さらに美味しく感じる。
二人で一通り料理を食べ終えると、玲音に聞いてほしい話が沢山あった撫子は、無邪気におしゃべりを始めた。 最初は笑顔で聞いていた玲音の表情が次第に曇っていき、撫子はおしゃべりをやめた。 「玲音さん、どうしましたの?」 じっと見つめてくる撫子を見つめ返し、玲音は不安に駆られていた。 (「今年のクリスマスは、撫子が一緒に過ごしてくれて、すごく嬉しかった」) その安心感と同時に、大きな戦いへの予感が、不安となって重く胸の中に沈んでいた。 「――撫子は、何処にも行かないよな?」 悲しそうな声で聞かれ、撫子は席を立って玲音の傍に歩み寄った。 「また、置いていかれるんじゃないか、と不安になるんだ」 玲音の瞳から透明な涙がこぼれる。 「俺には家族が無いから」 玲音は、幼少の頃に両親を亡くしたこと等、自分の過去について少しずつ撫子に話しはじめた。 最後まで静かに聞いていた撫子は、玲音の頬に触れた。 「でしたら、ナァが玲音さんの家族になりますの」 真剣な表情で、そう断言する。 「お母さんでも、お姉さんでも、妹でも、何にだってなってみせますの」 来年も、その次の年も、ずっとずっと一緒に。 そう思いを込めて、撫子は必死に玲音に一人ではないことを伝えようとした。
玲音は、頬に触れていた撫子の手を握り締めた。 「じゃあ、お願いしようかな」 そう言って、深呼吸する。 「来年も一緒に過ごしてくれ。二人で、生き残って」 撫子が頷くと、玲音は涙を拭って微笑んだ。
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