三井寺・雅之 & 速坂・めぐる

●『俺、めぐるのこと好きなんだ! だから、よろしくな?』

 クリスマスの夜。サンタクロースの衣装を纏った雅之は、ある場所へ向かっていた。
 様々なパーティが開かれる銀誓館学園で、最もメインとなるパーティ会場。そこに飾られた、大きな大きなクリスマスツリーの下に、彼女はいた。
「速坂!」
 自然と駆け足になりながら、雅之はめぐるの名を呼んだ。気付いためぐるが顔をあげ、雅之の名を呼ぶ。
「メリークリスマス! ……ごめん、待ったか?」
「ううん。メリークリスマス」
 首を振って笑うめぐると挨拶を交わす。それはいつもの会話の延長線上に過ぎない。
 だが。
「……速坂」
 それじゃ、いけないんだ。
 雅之は少しだけ声のトーンを変えて、もう一度めぐるの名を呼んだ。
 今日は……いや今日こそ、今日だからこそ。
 とある決意を、雅之は胸に秘めていたから。
「……何?」
 その気配が滲んでしまっていたのか、何かを察知して身構えながら答えるめぐるに、雅之は手にしていたサンタ帽をちょこんと乗せた。
「これ……さ」
 それから、用意しておいたリボンを差し出す。
「クリスマスプレゼント。速坂に似合うかなと思ってな」
 白いリボンに踊る模様。その姿はまるで、風を見ているようだったから、思わず手にとってしまった。
 そのとき脳裏に浮かんだのは、もちろん彼女のことだけ。
「――それから」
 ここから。
 この先こそが本番だと、雅之は一度大きく息を吸って――吐いた。その想いを吐露するかのように、自分の声へと乗せながら。
「俺はさ、速坂のこと『速坂』って呼ぶだろ。本当は『めぐる』って呼びたいとずっと思っていたんだ。でもすごく恥ずかしくて呼べなかった。それは俺が――」
 速坂を、と言いかけて飲み込む。ちょっと緊張するけど、それでも。
「――め、めぐるのこと……好きだから」
 はじめて呼んだ彼女の名前に、たった一言付け加えただけ。でもそこに、万感の想いを込めながら、雅之は言った。
 声が震えているのが自分でも分かる。
 この声は、この音は、今めぐるに一体、どう聞こえているのだろう?
「……そういうわけで、これからは『めぐる』って呼ぶからよろしくな!」
「雅之……」
 後は一気に一息に、そう言い放った雅之を、めぐるは目を丸くして見つめ返す。その顔が赤くなっているように見えるのは、きっと雅之の気のせいではないはずだ。
「…………」
 告げたのはいいけれど、そりゃあ、恥ずかしくないと言えば嘘だ。なんとなく、どちらも何も言わないまま沈黙して、黙り込んだままに見つめ合う。

 結局そのまま、なんだか妙に意識してしまって、話らしい話はできなかったけれど……でも、その沈黙は決して、重苦しいだけのものではなくて――。
「………うん」
 めぐると別れた後の帰り道。小学校最後のクリスマスパーティで、好きな人へハッキリと想いを告げることができた雅之の顔は、清々しいほどに晴れ晴れとしていた。



イラストレーター名:七雨詠