●『repeat』
今にも雪が降り出しそうな空。今日はクリスマス。行き交う人々はどこか幸せそう。楽しそうな親子。笑顔のカップル。大きな包みを持った仕事帰り風な今宵のサンタクロース。 それぞれに――青麗の方が若干多く、荷物を持った青麗と舞矢も並んで笑顔で歩いている。二人だけのクリスマスパーティを開こうと、買い物を済ませて自宅に戻るところだ。 とある交差点で舞矢の足が止まる。 「ねえ、青麗。ちょっと寄っていきたい所があるんだけれどいいかしら?」 小柄な舞矢は、青麗を見上げて上目遣いにお願いした。 「ん? いいけど、何処」 このまま家に向かわないの? と戸惑う表情の青麗を引きずって走り出した。 ――ふわり。 静かに雪が降り出す。雪も気にせず、人ごみを避けつつ走り、閑静な住宅街に辿り着いた。 「あ……ここ」 青麗がその建物を見て、少し目を丸くし、小さく漏らす。 2人の目の前にある建物は小さな教会。街中の広場に比べれば控えめなクリスマスツリー。街中のツリー程の華やかさはないが、オーナメントで飾り付けられて、厳かな教会に相応しい姿。 この教会は2年前のクリスマスの思い出の場所。 結婚式が行われていて、そこを通りかかった舞矢達の目の前に花嫁が投げたブーケが落ちてきたのだ。そのブーケに後押しされた舞矢は勇気を振り絞って青麗に想いを告げたという思い出の場所。 その時の青麗の答えが曖昧だったのか、それとも舞矢の認識が甘かったのか、二人が正式に付き合うまでそこから2ヶ月の時間を有する事となる。舞矢にとって黒歴史と言える場所と出来事だったが、それ故にあの時をやり直したいという思いがずっと胸中にあった。 「青麗、結婚して」 舞矢が真っ直ぐな瞳で青麗に告げた。2年前、ブーケの後押しによって勢いで告げた言葉。今度は自分の意思でしっかりと。 「絶対幸せに、する。舞矢、愛してる」 あの時は驚きに目を白黒させていた青麗だが、今は違う。当たり前のように真っ直ぐな瞳で言葉を紡ぐ。今では舞矢のいない世界など考えられなくなっていた。 「青麗……」 「舞矢……」 どちらからともなく、2人は抱きしめ合う。そして、そっと唇を重ねあった。
純白の雪に見守られながら――。
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