白雪・咲夜 & 川原・世寿

●『ソウアイの花』

 クリスマスムードを盛り上げる様々なイルミネーション。
 そんな街の一角……とある街角のクリスマスツリーを2人で眺めた。
「綺麗、です……ね」
 目を細めて見上げる世寿に「そうですね」と咲夜は頷く。
(「世寿とこうしてクリスマスを共に過ごすのも、これで4度目か?」)
 咲夜はチラリとそんなことを思った。
(「……思えば、長く待たせちゃったな」)
 世寿は21歳で、咲夜は『まだ』17歳――けど、あとふた月もすれば18歳だ。
 だから伝えたい。今すぐ、もうすぐだって。
(「そして――確かめたい。世寿の変わらぬ、私への想いを」)

「世寿」
 綺麗だ、とクリスマスツリーを見上げて目を輝かせる世寿の名を、咲夜は静かに呼びかけた。
「は、はい?」
 咲夜の声に世寿は振り返った。
 いつものように少しつかえ気味に応じる世寿に、咲夜はクリスマスツリーの下で、ショールに隠し持っていた蒼いアイリスの花束をそっと差し出す。
「――これを」
 花束を、世寿に贈る。
 一輪一輪……世寿に贈る事を考え、贈れなかった気持ちの数だけ包んだ、『ウェディングブーケ』を。
「……本当は式の当日に贈りたかったんだけどな」
 咲夜はぽそりと呟いた。
「我慢できなかった♪」
 続けて、「アハ」と軽いノリで告げる。
 驚いて藍色の目を見開く世寿に意識せず笑って、咲夜は彼女が持つブーケからアイリスを一輪抜き取った。世寿の髪を撫でながら、そっとその黒髪に花を飾る。
「……あともう少しだけ待てるなら、こんな風に……私の胸にも一輪、挿して欲しい」
 軽いノリは鳴りをひそめ、咲夜は静かな声音で告げた。
 咲夜はプロポーズの言葉なんて今までいくらでも吐いてるし――今さらだ。それは承知してるし、世寿の答えも確信してる。
 ……それでもまだ残る不安を、一笑して欲しい。
「ここまで、待ったので、す。あと、数ヶ月など、すぐなの、ですよ……」
 世寿はそう言って、恥ずかしげに俯きながら、咲夜の胸にも一輪挿した。……咲夜の願った、言葉の通りに。
 嬉しかった。応じてくれたことが……嬉しかった。
(「――本当に、何を今さら……バカらしいな」)
 勝手に笑えて……咲夜は今頃、照れてきた。
(「あーあ! 恥ずかしくなって来たなもう!」)
「これで来年のクリスマスは夫婦で過ごす事になるのかな〜」
 咲夜は軽口で誤魔化す。
「も、もう……」
 俯きながらも、世寿も頷き返してくれる。
 ソウアイの花を貴方に。――貴方から。
 この聖なる夜に、誓いの花を。



イラストレーター名:しんり ミツバ