●『黒いお姫様と緋色の王子様』
(「団長と出逢ってからもう二年か……」) 多くの人がクリスマスパーティを楽しむ中、律は自分の身なりをもう一度確認しながら気持ちを整える。 (「男性に恥をかかせるのは、レディにあるまじき行為ですからね。ここは彼にお任せしましょう」) 許しを得てから律は彼女の手を取り、静かに手の甲へと口付けを。その口付けに対して笑顔で返され、自分の顔が少し熱くなっている事に気付く。 「……こ、これは昔、映画で見たのを真似ただけだっ!?」 落ち着け、落ち着け……高まる緊張を抑えつつ、彼女をリードしつつダンスを踊り始める律。 (「一生懸命なリードですからね、無駄にしないようこちらも合わせましょう」) どこかぎこちないリードではあったが、彼の一生懸命さがはっきりと伝わってきて雷は微笑ましく思っていた。 第三者から見ればそれは酷いダンスだったのかもしれないが、互いに気持ちを合わせて踊るダンスは決して見劣りするものでは無いだろう。 優雅に黒いドレスを翻し踊る姫君と、それをリードする緋色の王子。二人にとってこの瞬間はとても楽しい一時であったに違いない。
一通り踊り終えた後、律は彼女の手を引いて隅へと移動する。 「お疲れ様です。とても楽しかったですよ、リッチャン」 笑顔で礼を述べる彼女を見て、律は決心した。今度こそ、ちゃんと言葉にして伝えよう。 「……団長、聞いてくれ。俺は――」 彼の真剣な表情に、何か大事な話なのだろうと雷は何も言わず先を促す。 「――団長が、好きだ」 シンプル過ぎて、陳腐に聞こえてしまうかもしれない。 でもこれが偽らざる自分の気持ち。聖なる夜に願う、自身の願いは――。 「あなたのそばに、いさせてくれ」 「…………」 彼の告白を聞いて、自分の顔に熱が帯びていくのを感じる。 (「――えええ!? どどど、どうしましょどうしましょ……」) 予想外の不意打ちだったのか、本人がそういう事に慣れていないのか……先程まで彼の事を気遣いつつ落ち着いていたのが嘘のようにうろたえていた。 上手く言葉を返そうにも言葉が出てこない。 「え、えーと……ほ、保留でー」 結局出てきたのはそんな酷く曖昧な返答であった。 とはいえ脈はあるという事、この先二人がどう過ごすかによって律の願いが叶う可能性があるという事なのだろう。 「……あ、ああ」 そんな期待を抱きつつ、今はこの返答で良いかと律は思った。 メリークリスマス。 聖なる夜に生まれた一つの想い、それが成就する事を願って……。
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