●『オーロラの下にて』
「ねえ、見て見て! 綺麗だよ!!」 「確かに……綺麗ですね。とても」 きゃっきゃっとはしゃぐ二二子の頭を撫で、蛍燐は微笑んだ。 澄んだ夜空を彩るオーロラ。優しく降ってくる純白の粉雪。そして、辺りは白銀に包まれている――ここはフィンランドだ。
無邪気な二二子に「クロボシセンセーイ!!」と飛び付かれたのは、つい先日のこと。 彼女は寮の先輩から「サンタに玄関で渡された」とプレゼントを貰ったらしい。実に、良い先輩を持ったものだ……が、そこまでなら良かった。 どうやら二二子。サンタはフィンランドに居ると聞いたらしく、蛍燐を旅行に誘って来たのだ。否、もはや無理強いに近かった。 「Hoーhoーhoー」 「…………。二二子さん、何をしているのですか」 「サンタさんに教えて貰った笑い方だよ!」 「そ……そう、ですか」 それでも、大急ぎで準備をして遥々フィンランドまで来た甲斐はあったように思える。サンタクロースに会う為、事前にあれこれやる羽目になった蛍燐だが、楽しそうな二二子を見られただけで彼は幸せだった。 サンタクロースオフィスでお菓子を食べて、短い時間ではあったが、憧れのサンタクロースと会話が出来た。 喜ぶ二二子の顔を思い浮かべながら、蛍燐はぼんやりと空を見上げる……しかし、せっかくフィンランドまで来たのだ。これだけで帰るのは少し、勿体無い。何か思いついたのか、蛍燐はパン、と手を叩いた。 「さて、ちょっと準備しましょうか?」 「…………?」 「オーロラの下でケーキでも食べませんか?」 「!? 食べる食べるー!!」 2人で簡易なテーブルとケーキを用意して、テーブルに並べる。当然ながら、ここは雪国。外は寒いどころの騒ぎではないが、オーロラの下でクリスマスのお祝いをするのも悪くないだろう。 蛍燐はテーブルの上のケーキを切り分け、二二子の前に置いてやった。 「サンタに会えて良かったですね、二二子さん」 「うん!!」 まだ、興奮気味の二二子は、そう言って目の前のケーキを頬張った。 「サンタさんはソリに乗ってプレゼントを配るんだってさ。見えるかなー?」 「ふふ……見えると良いですね」 ケーキを口に運びながら、蛍燐は笑った。二二子は真剣な顔で、サンタクロースのソリを探している。 「二二子さん」 「なーに? クロボシセンセイ?」 ソリ探しを止め、二二子は蛍燐に視線を移した――彼女はやはり、子供らしい純粋な瞳の持ち主だった。
「また、サンタさんに会えれば良いですね」 「うん!!」
粉雪が、オーロラが。優しく彩る、冬のフィンランド。 無邪気に笑う二二子に、蛍燐は優しく微笑みかけた。
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