ヴェティル・ソリクーン & 沢下・絵毬

●『Epousez-moi』

 共に過ごす、三度目の聖夜。
 お互いに高等部を出てすっかり新しい生活にも慣れて、だからというわけではもちろんないだろうけれど、なかなか会えない日々が続いていたから、久し振りのデートになる。
「今日は、楽しかったね」
 それでも、同じ気持ちでいられることはとても素敵だと思う。
 だけど。
「ああ……」
 絵毬の言葉にも、ヴェティルはどこか、落ち着かなげに上の空。
 どうしたのだろう。なにかあったのだろうか。自然ふたりの口数は減って、静かに家路を行く。
 その道の途中で、暖かな色合いのイルミネーションに彩られた大型のツリーがふたりを照らした。
「わぁ……綺麗だね」
「──絵毬」
 足を止めたヴェティルが、彼女を呼ぶ。
「うん?」
 なに気なく振り向いた絵毬も、真摯な色を宿す彼の赤い瞳に、知らずきちんと姿勢を正して。
 ほんの少し、時が止まったみたいな空白。
 一定の間隔で瞬くツリーの電燈が、彼の背を押した。
「メリークリスマス。俺からのプレゼントはこれだ」
 差し出したのは、綺麗に包装された、小さな箱。小さな絵毬の手に、丁度納まる大きさの、それ。
 今日の彼の様子。箱の大きさ。これまでの、ふたり。
 色々なことを考えると、これは、きっと。
 僅かに頬を紅潮させ、深い緑の瞳でヴェティルを見上げる絵毬に、彼は小さく促す。
「……開けてみてくれ」
「う、うん……」
 リボンを解く指先が、震える。
 静かにゆっくり、小箱を開いた絵毬は、その中に収まっていた輝きに、思わず息を呑んで凝視し、固まってしまう。
 ああ、ああ、どうしよう。
 透明な石が上品な、銀のリング。
 プレゼントから目が離せなくなってしまった彼女の背後に回って、そっとその身体を包み込む。
 小箱の中からリングを抜き取って、彼女の左手、薬指に、嵌める。

「これからもずっと傍に居て欲しい。……結婚しよう」

 囁くように。
 でも、彼女にこの想いがまっすぐ伝わるように、力強く。
 本当に微かに震えていたように見えた絵毬の唇が、ふわりと笑みを象る。
 しっかりと、肯く。
「きっと、良いお嫁さんになるよ」
 振り向いて見上げてくる瞳と、かちりと視線が合う。

「ずっと一緒に居させてね、大好きよ」

 共に過ごす、特別な夜。
 これからそれは、いとしい愛しい『日常』へと、移り行く。



イラストレーター名:naru