一ノ瀬・ゆに & 斎樹・迩乃

●『 Le Langage des Fleurs 』

 ダンスパーティも終わり、人も疎らとなった体育館。
「やっぱ、ツリーは見とかねーとな」
 ゆには迩乃と二人で、ライトアップされたクリスマスツリーを眺めていた。
「ダンス、踊れるか不安だったけど、とっても楽しかった〜! ゆにがリードしてくれたから、かな?」
 すると、迩乃は、少年に、楽しげに話しかける。
(「すっごく慣れてるのが、ちょっと悔しいけど」)
 けれど、少女の心は複雑だ。
「ダンスは楽しいものじゃねーの。気のせいじゃねぇ」
 そんな思い知らず、素っ気無い言葉を返すゆに。
「……」
 一瞬、広がる、なんともいえない間。
「あ、ステキな薔薇有難うね」
 手に持ったアンジェリーク・ロマンティカという名のピンクの薔薇に目をやり、思い出したかのように、礼を言う迩乃。
「あー、俺、あんま花詳しくねーからな。色々見て、あーなんか迩乃っぽいって思って」
「すっごくお姫様っぽいの♪ 色も、ドレスと似ていて、なんだか運命感じちゃったのよ」
 まぶしい笑顔を浮かべ、迩乃は、嬉しそうに語る。
「お姫様……。ま、いーんじゃねーの。今日の雰囲気と合ってるし」
 だが、ゆには、対照的に無愛想な言葉を語り紡ぐ。

「ところで、この花言葉ってなあに?」
 不意な質問。
「……」
 すると、ドライな対応を続けてきたゆには、言葉を詰まらせる。
「うん?」
 どうかしたのか気になり、少年の方へ顔を向ける少女。
「教えない。つか、自分で調べろ」
 すると、ゆには、ぶっきらぼうに言葉を吐く。
「えー、ケチケチ」
 その言葉に、子供っぽく、顔を膨らませる迩乃。
「大体、俺がこの花の花言葉、何?って聞いたら……お前答えられるのか?」
 そう言うと、ゆには、貰った紫君子蘭を迩乃の前に差し出す。
「ふぇ!?」
 紫の花を前に、顔を真っ赤にする迩乃。

 紫君子蘭の花言葉は、『恋の訪れ』。

「わ、わ、わたしのあげた花は調べなくていいのよ! やだやだ、駄目だからね!」
 少女は慌てふためき、落ち着きそうにない。
 そんな反応を見つめつつ、少年は思う。
(「無邪気に花言葉なんか聞くから……面と向かって言えたら、苦労なんかしないだろ」)
 素直になれない彼が、思いを伝えるために用意した花。
 花言葉を調べていない訳などない。

 アンジェリーク・ロマンティカの花言葉は、『君のみが知る』

 そんな二人のやりとりを、クリスマスツリーは、微笑ましく見つめていた。 



イラストレーター名:霧夢ラテ