●『The Hunt for Santa Claus』
「で、何があったんだ?」 「それが……」 クリスマスイブの夜、青葉からのメールを受け取ったアギトは住宅地の一角へ来ていた。 ごくごく普通の住宅街。しかし、青葉の家の近くというわけでもない。 何か事情があるに違いないと返事を待つアギトへ、青葉は神妙な顔で言った。 「サンタクロースのような人影が、向こうの方にですね……」 「……けーき売りじゃねえのか?」 ずるりと内心崩れ落ちつつアギトが紡いだ言葉に、青葉は真剣な眼差しで首を振る。 「でも私を見て逃げました」 「そりゃ怪しいな」 「はい……きっと本物のサンタクロースです」 アギトはあくまでも『不審者として』怪しいと言ったのだが。どうやら青葉は、そうとは受け取らなかったようだ。思わず彼女を見返すが、どこからどう見ても大真面目。100%本気の発言だとわかる。 「追いかけましょう」 「……」 物言いたげなアギトに気付かず、駆け出そうとする青葉。見れば彼女の足元には、ソリらしき跡がある。 ……確かに、このソリの跡は少々気になる。 まあ、せっかく来たんだし付き合ってやるか、とアギトは青葉に続いた。
ころん。 「…………」 しばらく追いかけた2人の前に現れたのは、路上に転がるプレゼントボックス。 「落として行ったみたいですね」 それを見て大真面目に推理する青葉だったが、アギトは妙な既視感に襲われていた。そうだ、そういえば確か……。 「なあ……前にもこんな事がなかったか?」 「そうですか?」 気のせいじゃないかと軽く流す青葉だったが、アギトは思い返せば返すほど、あの時と今のシチュエーションが酷似しているような気がしてならない。 そうして更に痕跡を辿り、道を曲がると――。
『ざんねんでした しーゆーねくすといやー byさんたくろーす』
風にたなびくカードが1枚。そして、その下には『残念賞』と書かれた紙が貼り付けられたプレゼントが2つ。 行き止まりになった袋小路の突き当たりに残されていたのは、たったそれだけ。 (「また……?」) 一体誰の仕業かと訝るアギトの隣で、青葉はしゅんと肩を落とす。 「会えませんでしたね……」 さんたくろーすさん、と呟く青葉は見るからに落胆している。 (「……まさかな」) 青葉を見ていると、もしかしたら本当にサンタクロースがいるんじゃないかという気がしてくるから不思議だ。 ともあれ、いないものはいないのだから仕方ない。 「しーゆーねくすといやー? だってよ」 「また来年、ですか……」 「そうか。じゃあ、また来年だな」 「来年……!」 来年こそサンタさんに会えるといいですね、と残念賞を拾い上げる青葉。 「どちらにします?」 「先に選んでいいぞ」 2人は引き上げながら、プレゼントの包みを分け合っていく。 アギトはその背後に、何かの気配を感じたような気がしたけれど……。 (「……ま、いいか」) 今年もまた、追及するのは止めておくことにするアギトだった。
| |