●『安らぎのぬくもり』
「料理、本当に美味しかったよ」 「頑張りましたから♪」 渓が微笑むと、ファルチェが上機嫌でにっこり自信たっぷりな笑顔を向けた。 昨年料理を失敗したリベンジとして、今年こそはと頑張ったのだ。 その手料理を振舞ったファルチェの部屋のソファでゆっくり寛ぐ2人。 ふと、渓が自分の荷物を引き寄せ、中から何か取り出した。 「メリークリスマス」 そう言って、綺麗にラッピングされた包みをファルチェに渡す。 「ありがとうございます♪」 ファルチェは、その包みを嬉しそうに受け取って、丁寧に包装を外した。 そこには、ヤドリギに包まれた森の宝箱のような小物入れ。中も確認しようと蓋を開けると、可愛らしい旋律が溢れ出す。 「わぁ……オルゴールになってるんですね」 瞳を輝かせるファルチェの様子を満足気に微笑む渓。 「私からも……」 ファルチェはソファの後ろ側に隠していた包みを取り出し、 「メリークリスマス」 渓に差し出した。 「ありがとう」 笑顔で包みを受け取り、ラッピングを丁寧に解く。すると、暖かそうなマフラーが出てきた。 「凄く手触りがいいね。落ち着いた色合いで凄く好みだ」 薄手で扱いやすそうなマフラーはこれから本格的に寒くなる時期に非常に重宝しそうだ。 2人に嬉しそうで満足げな笑顔が広がった。
「今日行った猫カフェ。凄く癒されましたね」 ファルチェは、その時の事を思い出して自然と顔が綻ぶ。そのファルチェを愛おしそうに目を細める渓。 こてん、と渓の肩に頭をもたれかけさせたファルチェ。渓はその髪を優しく撫でた。 1日中動き回って、暖かい部屋でお腹もいっぱいになって、その上、渓が撫でてくれる心地よさに、ファルチェはうとうととしだしてしまう。 「ダンスも凄く楽しかったね」 「そう、ですね……」 (「折角のクリスマス……渓さんといっぱい、お話し……」) どうにか頑張って起きていようと必死に睡魔と戦うファルチェ。 「あんなにいっぱい踊ったの初めてだよ」 「……」 反応がなくなったファルチェが、どうかしたのかと隣を見ると、気持ち良さそうに寝息を立てる姿が渓の目に入った。 (「もう少し話したかったけど……今日は色々あったし、しょうがないか」) 風邪を引かない様に毛布をかけ、「おやすみなさい」そう言って自分の部屋に戻ろうとした渓の手が捕まれた。 「一緒に、寝ましょう、ですの」 寝ぼけて夢うつつなファルチェが、にこっと笑う。 渓は暫し動きを止めたまま逡巡した。 しかし、寝ぼけ眼で自分を見上げる瞳に抗う事はできず、ソファに座り直した。その渓の肩にファルチェの頭がもたれかかる。 「おやすみなさい」 渓は再びファルチェの髪を優しく撫で、瞳を閉じた。
大切な人の温もりをその身で感じながら二人はどんな幸せな夢を見ているのか――。
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