●『仲睦聖夜』
「へっへー、今年はこんなとこまで1人で飾りつけられるんだぜ!」 今日はクリスマス。顔の良く似た2人の兄弟が仲良くツリーを飾りつけている。 2m程はあるであろう、大きなクリスマスツリーを飾りつけるのはこの兄弟の仕事だった。弟の陽向が、上機嫌に笑顔を浮かべながら、ツリーに雪の結晶を模った飾りをつけている。 これが終われば、両親と一緒にクリスマスパーティがある。だからこそ、彼は張り切っているのであろう。 「陽向、危ないからあまり無理するなよ」 とはいっても、何だか危なっかしく見えるのは変わらない。長身な兄の慧夜とは違うのか、純粋に成長が遅いのかは分からないが、陽向は決して身長が高いわけではない。 「ああもう! 無理!! 兄ちゃん!!」 必死に背伸びをして頑張っていた彼だが、遂に根を上げてしまったようだ。 「ん? どこだ……?」 床に座って黙々と飾りを用意していた慧夜が立ち上がり、陽向が持っていたサンタクロースの飾りを受け取った。 「兄ちゃん兄ちゃん! このちっこいサンタ、星の近くに飾ってー!」 「分かったよ」 星の近くというと、この高いツリーの天辺付近だ。慧夜でも厳しい高さ――当然ながら、陽向には無理のある位置だ。 「あ、この丸いのはそこ……違うよー、もうちょっと左!」 「はいはい」 「じゃあ、これは俺が飾るね〜」 丸い飾りを付けた後、慧夜は1歩下がって弟の様子を見守り始めた。その表情は、普段の彼にはあまり見られないような、優しいものである。 大学に進学してから、なかなかこうしてゆっくりと弟に構ってやれなくなっていた慧夜にとって、今日のような時間は非常に貴重なものだった。
「兄ちゃーん……」 「今度はどこだ?」 「あっちー!」 どうやら陽向の中には完成後のイメージ図が存在しているようで、随分と具体的に場所を指示してくる。センスの良い飾り付けにはどうしても高い位置は外せないらしく、陽向は定期的に慧夜の助けを借りていた――「にゃあ」と猫の鳴き声が聞こえてきたのは、そんな時だった。 「あっ、水!! 絡まっちゃった……」 程良いサイズに切る前の、長いリボン。恐らく、それで遊ぼうと思ったのであろう。ペットの猫、水がリボンに絡まってしまっている。いつの間にやって来たのだろうか。 「ほら、水。取ってやるからじっとしていろ」 リボンが嫌でたまらないのか、じたばたじたばたと必死に水が暴れている。そのせいで、余計にリボンが絡まってしまっていた。 「何か、水がプレゼントみたいになっちゃったね〜」 水に絡まっている物と同じ、黄色のリボンを持った陽向は再びツリーに向かい合った。完成までは、あと僅かである。 「今年も綺麗なツリーが見れそうだな」 「えへへ、兄ちゃんありがとー!」 慧夜は水を救出しつつ、陽向を見守っていた――これは兄弟能力者の、和やかで貴重な1日。
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