●『こころ、繋ぐ』
イルミネーションの煌めく聖夜の街角。 人波の途切れた静かな道を、夏目と浅葱は手を取り合って歩いてゆく。 今日は、2人で過ごす4回目のクリスマス。 ちょっとしたパーティーに出かけて、これからも共に在ることを言葉にして確かめ合って……。 そうして歩く帰り道。 吹っ切れたような晴れやかな笑みで浅葱が振り返れば、受ける夏目も満面の笑顔でその笑みに応えて。 言葉にしたことで得た幸いと、言葉にせずとも伝わる幸いの両方を噛み締めながら、2人は家へと歩を進める。
夏目の手を引いて先を歩みながら、浅葱は想う。 繋いだ手から感じる体温のような、温かさに満ちた胸の内を彼に伝えたい、と。 夏目から貰った暖かな想いは、今も胸の中に満ちている。 いつか、それを彼に返したいと思うけれど。 でも、今の自分にはそれを伝える言葉が足りなくて……。 だから、 (「――貰っただけの温もりを言葉で返せる自分になりたい」) そう、小さな目標を胸に抱いて、今は夏目に向ける笑顔に万感の想いを込める。 それだけで全て汲み取る彼の優しさに、もう少しだけ甘えさせてほしいと願いながら。
浅葱に引かれる手を、確りと握り返しながら夏目は想う。 この心に溢れる気持ちを、自分は言葉と温もりでどれだけ伝えられているだろうか、と。 浅葱のくれる何もかもを、ひとつとて零さぬようにと受け止めて、夏目は微笑む。 言葉も、笑顔も、温もりも。 浅葱から貰った幾つものものは、暖かな熱となって心の中を満たしている。 だから、今度は自分がその暖かさを伝えたい。 向けられた笑みに心が温かくなるのを感じながら、夏目はそっと手を握りなおす。 この気持ちが、少しでも浅葱に届くようにと願いながら。
冬の寒さを忘れるような穏やかな空気の中。 繋いだ指先は離さずに、2人は足取り軽く家路を辿る。 雪と共に吹き抜けてゆく冬の風は冷たいけれど……。 きっと家路を辿り終えても、この熱は、何時までも覚えている。
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