●『サンタみならい』
「気づかなかったな」 と、遠野奏名はその夜、発見した。 クリスマスの夜を輝かせる、イルミネーション。それは、高ければ高いところほど、綺麗に見える、という事実を。 なら、もっともっと高いところ……例えば、空高くから見れば、もっともっと綺麗に見えるんじゃあないか? かくして、妖弧の小学生男子は、その年相応の思いつきを実行すべく……相談した。 「おれ一人で、もっと高いとこに行くのは無理だ。けど、ににこ姉ちゃんの力があれば……」 もっと高いところに行けるだろう。
「うん。全国の良い子にー、にこにこバッジを配らなきゃあね!」 そして、その話を聞いた「ににこ姉ちゃん」こと、高橋二二子。ちょうど寮の先輩たちより「良い子にプレゼントを配るサンタクロース」の話を聞き、彼女もまた、とある使命に燃えていた。 「にこにこバッジ」 高橋家では、良い事をすると配布されるごほうび。それを、町の良い子のみんなに配らなきゃ、という使命に燃えていたのだ。
「んへへ、高いねーヤスナ君」 にぱっという擬音が響きそうな笑顔で、町のイルミネーションを見下ろす二二子。 「……あー、そうだな二二子姉ちゃん。普通に落ちたら、まず助かんねえだろうな」 それとは対照的に、ちょっとばかりスカイダイビングへの決意が揺らいでいる奏名。 二人は飛行機より、今まさに空中に飛び出すところ。しかし普通のスカイダイビングと異なるのは、二人はパラシュートをつけていないという事実。 パラシュートの代わりに、奏名はトナカイ服を着させられている。「クリスマスだから」というアイデアを出した二二子の発案だ。そして当の本人が着るは、サンタ服。 二二子のエアライドの力を用いれば、パラシュートなど無くとも空中遊泳ができる。その際に見るイルミネーションは、さぞかし綺麗な事だろう。 とはいえ、墜落死の可能性を考えると、いささか決意が鈍る事も……。 「えいっ」 「えっ」 ……などと考える暇もなく、二二子は奏名を蹴り落とした。続き、彼女は自身もも空中へと身を躍らせる。 「こうやって見れば、きっとー、もっと綺麗だよー、えへへ」 サンタ服の二二子の声を聞きつつ、夜空を降下する奏名。 「ちゃんと……骨になる前に……拾って欲しいんだぜっ……」 などと、吹き付ける風の中で悪態をついてみた。が、同時に彼女の言うとおりだと実感していた。 上空から見る町のイルミネーションは……想像通りの美しさ。 いや、想像以上。おもちゃ売り場できらめいてる、わくわくするような玩具のようだ。 そして、この玩具で遊ぶのは彼、遠野奏名。 「……最高だ! 最高にきれいで、面白いぜ! イヤッホーッ!」 いつしか、奏名は自分が歓声を上げているのを聞いた。聞きつつ……夜の街中へ、きらめく光の中へと飛び込んでいった。
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