●『Happy Merry Christmas & We are engaged!!』
気が付けば、そろそろ二年の月日が経とうとしていた。 二人の間に流れた時間は、濃密で、穏やかで、大切で、かけがえが無くて。 目に見えないその流れを、形あるものにしたくて、きちんと大切にしたくて。色んな記念日を数えては、色んなものを互いに贈り合った。 手帳、マグカップ、音楽プレーヤー、書き下ろしの楽譜。 今でも部屋をふと見れば、どこかに必ず、相手の色を宿した小物がある。 色んな記念日に、色んなものを。 そして今年の誕生日に贈り合ったのは、柔らかく暖かい、薬指に宿る光だった。
「ハニー」 長い髪を括った草楼が、サングラスの奥で優しく目を細める。さとると向かい合った状態で、彼女の左手を自分の右手に乗せ、じっと見つめていた。 「ようやく俺の名前が栢沼・草楼になるときが来たな」 「いやいや、それは結婚してからですよ」 さとるの右手には、自分より大きな草楼の左手が乗っている。笑いながらさとるは言うけれど、その目尻には、うっすらと涙が浮かんでいた。 草楼は並々ならぬ思い……と、労力を、さとるの左薬指に光る指輪に込めた。金型から作ったのだから、ガチもガチだ。 九月の自分の誕生日にそれを送られたさとるは、ならばと自分もできる限りのことをした。さすがに自作は無理だったけれど、欧州のヤドリギ使いさんに祝福してもらった男性向けシルバーアクセ。さとるの手の中にある相手の左手薬指で、それは鋭くも優しく光る。 向かい合いお互い手を取り合った状態で、さとるは心の底から零れるような笑みを浮かべた。涙が一粒だけ、本当に零れてしまったけれど。 「私、本当に幸せ者です。先輩」 「まだまだこれから幸せになるんだろう」 微笑む相手の言葉が嬉しくて、さとるはまた笑みを深くした。幸せ、本当に、幸せです。
私達、婚約しましたー! 草楼はどこか照れくさそうにさとるを横目で見ながら、さとるは嬉し涙を指先で拭いながら、二人で指輪のはめられた左手を並べる。 指輪が揃った二日後がクリスマスイブなんて、本当、神にも感謝したくなるような幸せの日だった。
「先輩、お婿に来られるならその時は是非ウェディングドレスで」 「いや俺黒スーツしか持ってないから」 二人で笑う。どうか、もっと幸せな未来へ。 いつか「ダーリン」なんて返せる日が来るのかな。こっそり思って、さとるはまた笑った。
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