●『Merry Chrisalice?』
冬の夜の大気は肌を刺すように冷たい。けれど、つないだ手のぬくもりがあればそれさえ愛せそうだった。 街はきらびやかな装飾が施され、多くの人で賑わっている。ケーキを売るアルバイトの表情にさえ、嬉々が浮かんでいる。 暦は12月24日。クリスマス。家族達の、友人達の、そして恋人達の特別な日。それは戦いの日々を送る能力者も例外ではなかった。 名虎とクリサリスにとってはとりわけそうだろう。今日この日は、二人が恋人になってからの初めてのクリスマスだ。記念すべき、愛すべき日。 照れからか、二人が言葉少なに街を歩いていく。キラキラした、宝石箱みたいな街。二人の心中のドキドキを表してくれているようだった。 やがて、大きなクリスマスツリーが見えてきた。ツリーを穏やかな表情で見上げるクリサリスの横顔に、名虎はじっと視線を向ける。見惚れてしまった。 綺麗ですね、と呟く彼女に「リリーの方が綺麗だよな……」と返事しかける。さすがに恥ずかしすぎて、咄嗟に言葉を飲み込んだけれど。 名虎の視線に気が付いたのか、クリサリスはくすりといたずらっぽい笑みを彼に返す。 「いや、その、綺麗なツリーだな」 狼狽する彼は必死で取り繕うのだけれど、やっぱり意味はなくて。 その姿に、クリサリスは嬉しそうに笑みを深めて。 「ありがとうございます、名虎」 と素直に心の内を述べた。真っ赤になった名虎は観念して、うん、と頷く。 なんてことのない日常。けれど特別な日。 クリスマスの寒空の下、多くのカップルが同じような瞬間を過ごしているだろう。そしてまた、来年のクリスマスも一緒に過ごせたらと願っている。 それはきっと当然のことで、それゆえにすごく大切なこと。 愛すべき特別な、ありふれた日々。 今、過ぎていくこの瞬間が惜しい。だからこそ、同じくらい次の瞬間が待ち遠しい。そうして、少しずつ日常は編まれていく。 「えっと、リリー」 慣れない愛称で呼ぶ声はどこかぎこちなく。 「はい」 けれど、応える声には確かな落ち着きがあった。 「来年も、その来年もずっと」 一緒にいよう、と少年が言う。その瞳には強い意志が輝いている。 「……はい」 頷いて微笑む少女の瞳にも、同じ想いがきらめく。 二人は、絆を確かめるようにつないだ手をぎゅっと握る。そこには、どんな寒空の下でも消えないぬくもりがあった。
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