●『Change! 今夜のリードは私のもの』
銀誓館学園では、『クリスマス男女逆転なりきり仮装ダンスパーティ!』が開かれていた。 本来の性別と逆の格好、言葉遣いをしてダンスを行うという一風変わった催しだ。 芽亜は恋人である沙紀と共に勇んで参加。 舞踏会で男装となれば、タキシード。 「えぇ、これでステッキの一つも持てば、立派な紳士ですわ……こほん、で――ある」 慣れない、というかままったく初めての気取った紳士口調も、これはこれで新鮮で面白い。 「それではいざ出陣――である」
(「女装とか慣れれてて抵抗無いのは、一般的には変なのかな?」) 清楚な蒼のゴシック調ドレスと、大きな花飾りのついたカチューシャで『麗しの姫君』へと変身した沙紀の胸には、少しばかりの疑問が浮かんでくるが。 (「まぁ、何事も楽しまないとね」) 持ち前の無邪気さで、あっさりと割り切ってしまう。 そう、一年に一度のクリスマス。せっかくのパーティなのだから。 余計なことを考えている暇はない。 「では、麗しの沙紀嬢――」 ほら、さっそくお誘いだ。
「――では、麗しの沙紀嬢、私と一曲踊っていただけるかな?」 「高名なる芽亜卿の誘いとあらば、喜んで受けいたしましょう」 もちろん、ダンスに誘うのは、『男』の側からである。 タキシードに身を包んだ芽亜が恭しく一礼して『紳士』的に誘うのに合わせ、沙紀はスカートの裾を軽く持ち上げ『貴婦人』の礼節でもってこたえる。 「そのドレス、よく似合っているよ」 「あら、ダンスの他に口も上手でいらっしゃること。私を相手にその余裕は流石でございます」 曲はハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』より、マズルカ。 ステップを交わしつつの芽亜の囁きに、沙紀は微笑をもってこたえる。 (「う、さすがステップを踏むのは上手い。少し踊りに集中した方がよさそう……だ」) 心の声まで紳士になりきろうとする芽亜の姿勢はさすがである。 舞の心得のある沙紀についていこうと、芽亜は手足に神経を集中する。 (「な、何とか踊りきれ……た」) 一曲終わり疲れきった芽亜は、立食スペースで一休みしようと沙紀を誘う。 「サラダばかりでは栄養が偏りますわ。こちらのローストビーフもお食べくださいな」 「芽亜も栄養食ばかりだと駄目だよ? この冬野菜美味しいから」 素の口調に一時戻った芽亜に、沙紀も合わせる。 お互いにすすめ合った料理を堪能し歓談する。 彼女の芽亜が男として振る舞い、彼氏の沙紀が女として振る舞う。 それは少しだけおかしく、新鮮で楽しい時間。 「さて、このなりでもう一箇所回る予定だから、名残惜しいがここで失礼。――レディ、それでは」 「出会いと別れは世の常、いつかまたご一緒いたしましょう」 そうして恋人達は二手に分かれ、それぞれこの奇妙なお祭りを存分に楽しむのだった。
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