九堂・今日介 & 風浦・小夜

●『聖夜の御茶会』

 空の遠くにまたたく星は、夜庭の天をやさしく泳ぎ、人の手による光もまた、負けじと地を華やかに湿らす。そういった多くのライトを仰ぎ見れば、全ては水面の向こうの花火に似て、霧に包まれた薄い境界線を、放射に伸ばしていた。
 夜露の降りつつある森の土に、二人の足跡が残されていく。歩調を揃えて、微笑を見せ合って歩く今日介と小夜の手には、宵を照らすランタンと、寒さを遠ざける紅茶のポットと、他にも色々、これからのイベントに備えた大事なものが提げられていた。
 銀誓館学園の、全校を挙げたクリスマスの夜。喧騒はツリーの遠くに、今も高らかに響いている。けれど、プレゼントの交換にそこは少し気恥ずかしくて、そっとパーティを抜け出してきたのだ。
 懐かしく思える場所を行く小夜に、今日介が指を差して方向を示す。そちらにあるのは、丸太を横に寝かせて作られた、シンプルな椅子だ。
「小夜さん、あそこがいいんじゃないかな」
「そうですね、九堂さん。それでは、ここでお茶会にしましょう」
 今日介が近くにランタンを据えれば、そこは幻想的な光に包まれた、二人のための空間となる。椅子に座った今日介に、小夜は紅茶を注いだ銀のマグを手渡して、揃い座る。
「ほら、これで暖まって。風邪ひいちゃだめですからね?」
 ありがとうございます、と今日介は受け取り、温かな雫を喉に通して言う。
「小夜さんこそ、寒いのを我慢してそうで、いろいろ心配です」
「そんなことはないですよ。……や、まぁ、九堂さんが心配してくれるのは、嬉しいですけど」
 消え行く語尾をごまかすように、小夜はポケットに小箱を探す。それは先の宝捜しイベントで見つけてから、肌身離さず持ち歩いていたリボンボックスだ。
「開けていい?」
「どうぞ。俺も、小夜さんのプレゼント、開けますね」
 二人は、同時に箱を開けた。小夜が取り出したのは、金のチェーンが美しい懐中時計だった。
 ためつすがめつ、月光を反射する時計を小夜は見る。蓋の裏に刻まれた文字を指でなぞって、傍らの今日介に視線を向けた。
「posteritas、ラテン語、かしら?」
「未来とか、ここから続いていくとか、そういう意味の言葉を選んでみました」
「ありがとう、大事にしますね。……あ、九堂さんも、プレゼントつけてみてください」
 言われた今日介の膝には、小夜が用意した手編みのマフラーが伏せてある。外から隠すように、preciousと刺繍が入った、淡い色のマフラーは、背丈のある今日介に合わせたのか、少し大きめに編まれたものだった。
 試しに巻いてみて、今日介は、笑みをこぼす小夜との距離を詰める。

「あ」
「はい」
 肩を寄せ、同じ布に包まれて、二人は言葉少なになる。
「あったかいですね」
「そうですね」
 吐息は白く、夜に溶けていく。
「マグをこう持ったら手も暖かいですよ」
「ほんとだ」
 指先に遊ぶ温もりは、交わした視線の体温は、いつまでもいつまでも、寒さを越えて残り続ける。



イラストレーター名:シロタマゴ