アルノー・ケンプフェルト & 碓氷・茜

●『幻想ではない、二人で過ごした愛の時間』

 壁中色とりどりのリボンやオーナメントが飾られ、ドレスアップしたクリスマスツリーがいくつも置かれた空間。
 本来、此処はどこかの体育館だが、今夜は2人だけのダンスパーティ会場。
(「もっとダンス練習しとくべきだったかな……」)
 アルノーは慣れない足取りで何とか茜をフォローする事に必死だ。茜もダンスには慣れておらず、足元がおぼつかない。
 たどたどしいダンスだが、2人はとても楽しかった。
「ふふ……」
「どうしたの?」
 急に茜が小さく笑い、笑顔のままアルノーが訊ねる。
「アル君とこうしていると凄く幸せ、って……」
「僕も幸せだよ」
 2人に幸せそうな笑顔が広がった。
 笑顔でそんな会話ができるくらいにはダンスに慣れてきたのだろう。しっかり互いの手を取って軽やかに踊っていた。
「ちょっと休憩しようか」
 アルノーが提案すると、
「じゃあ、折角なのでアル君からのプレゼント、着てきます」
「うん」
 アルノーは微笑んで着替えに行く茜を見送り、体育館のステージに寄りかかって休憩する。
 2人は元々クラスメイトで、付き合い自体はそこそこ長いのだが、去年の丁度この日に恋人同士になった。
 照れくさくて恥ずかしくて上手く喋れず、ニッセ人形越しに会話をした日からもう1年。
(「もう1年か……このままずっと一緒にいたいな……」)
「お待たせしました」
 ふいに茜の声が耳に届いた。そちらに顔を向けると、深紅のドレスに着替えた茜の姿。髪もドレスに合わせて紅いリボンをつけている。
「……えと、似合いますか?」
 恥ずかしそうに少し頬を赤らめた茜。
「凄く可愛いよ茜ちゃん」
 自分のプレゼントしたドレスが本当に似合って、普段と違うツインテールの髪型も凄く可愛くて、アルノーは満足げに笑った。
「あ、有難う……」
「……僕と踊ってくれますかお姫様」
 更に顔を紅くする茜にアルノーは少しおどけて、でも、優しく微笑んで手を差し出す。
「はい」
 嬉しそうに笑った茜はアルノーの手を取った。

 楽しい時間というのはあっという間で、どんなに楽しくても終わりは必ず来る。
 最後の曲が緩やかに終わり、優しく抱き締める様に茜をその背から受け止めたアルノー。
「絶対に離さないよ、茜ちゃん……愛している。今までもこれからもずっと、だから……僕から離れないで、何時でも何時までも傍にいて?」
 そっと茜の耳元で囁いた。背を預けたまま顔だけ振り返った茜とアルノーの視線が交わり、茜に満面の笑みが広がる。その笑顔がアルノーには何よりも大切で愛おしく。
「約束、ですよ」
 ふわりと微笑んだ茜は、委ねていた体を離し、アルノーと正面から向き合った。視線が絡むより早く、その胸に飛び込み抱きつき、アルノーも茜の想いに応え、力強く抱き締めた。



イラストレーター名:七雨詠