●『白い幻想曲』
星の輝く夜空より降り注ぎ、街灯の淡い光に照らされた雪の結晶。それはふわりふわりと舞って景色を幻想的なものへと変えていく。 クリスマスパーティーからの帰り道。いつきはゆっくりと歩みながら、そんな景色から隣を歩く華呼へと顔を向けた。純白のドレスを身にまとった彼女はとても綺麗で、思わず笑みがこぼれる。けれど、その一方で華呼は少し不満気な表情をしていて、突然歩みを止めた。 「……華ちゃん?」 「本当はもっと上手く踊れるんですよ」 腕を組んでいた為に、同じく立ち止まることになったいつき。思わず漏れた小さな声が、負けず嫌いな華呼らしい言葉を空気に乗せて彼の耳へと届けた。とてもロマンチックで楽しかったパーティーでの踊りだが、華呼はあまり上手く踊れず。いつきの足を踏んでしまった事をからかわれたりしたのも、不満の要因になっているようだ。 「じゃあ、もう一度踊ろうか」 すねている表情が可愛らしくて、いつきは彼女の手を取りながらクスリと笑う。一方の華呼は、かけられた言葉に対して驚いた表情を見せた。 「ここでですか?」 「誰もいないから大丈夫。失敗しても恥ずかしくないよ」 「失敗せずにちゃんと踊れるんです!」 再び笑いながらからかう様な発言をするいつきに、華呼は頬を膨らませて反論する。けれど、腰を引き寄せられると、彼女は踊り始めた。 人気のない道だとはいえ、華やかなタキシードとドレスを着たまま外で踊るのは、さすがに恥ずかしいのか。少し戸惑い気味ではあるものの、華呼は上手くステップを踏む。しばらくすると、失敗せず踊れている事で楽しくなってきたのか、華呼の表情には笑顔が溢れていて。いつきと視線が絡むと揃って柔らかく微笑んだ。
「ほら、ちゃんと踊れましたよ」 踊り終えても手は繋いだまま。得意げに、そして嬉しそうに、華呼はいつきを見上げる。彼女の髪についた雪を払いながら、いつきは優しい表情を返した。 「これなら来年は会場でも上手く踊れるね」 「来年はもっと上手くなります。年々上手になるんですよ」 「じゃあ、毎年踊ろうか」 恋人という関係になって3年。いつも一緒に過ごしてきたクリスマス。それをこれからもずっと、2人で毎年一緒に……。 「踊りましょう。おじいちゃんおばあちゃんになっても、一緒に踊りましょう」 ぎゅっと、華呼はいつきの手を握りしめた。嬉しい気持ちが伝わったのか、藍色の髪がふわりと揺れ動く。そんな中、夜風で冷たくなった華呼の頬に触れると、いつきは少し意地悪そうな笑みを作った。 「それってプロポーズ?」 「そ、そういうんじゃないんですっ」 まさかそういう意味にとられるなんて。と、思わず頬を赤く染める。そんな華呼も愛おしくて、いつきはそっと彼女を抱き寄せた。
「おじいちゃんおばあちゃんになっても、一緒に踊ろうね」
腕で、声で、匂いで、大好きな彼に包み込まれる。 優しくささやかれた言葉は、永遠の約束だろうか――。
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