●『たまにはこういうのもいいよね』
「何で彼女おんのに男同士で炬燵囲んどんのやろなぁ……」 久遠は炬燵とジャックを見比べながら、溜息をついた。 「俺と二人でも我慢しろよ、独りよかマシだろ?」 ジャックがそう言って笑ったので、久遠もまあいいかという気分になる。 (「まぁたまには師弟水入らずもええか」) 「あれ、そのパーカー俺があげたやつ? 嬉しいねぇ」 久遠の着ているパーカーを見て、ジャックはからかうように笑う。 「へいへい、ええから炬燵の上拭いて」 久遠は照れ隠しで軽く流したが、実際はとても大切に着ていた。 料理を並べ終え、骨付きチキンを解体しはじめた久遠は、肉を裂きながらジャックに質問してみることにした。 「そういや銀誓館来る前って、どんな風に過ごしてたん?」 (「師匠且つ相棒の昔話、前から聞いてみたかったしな……」) 「なんだ、俺の昔話に興味あんのか? よし、時間はあるし、いっちょ話してやっか!」 ジャックは便利屋だったときの仲間や出来事を、飲み食いしつつ身振り手振りを交えて話した。 久遠も飲んだり食べたりしながら、ジャックの話に時折相槌やツッコミを入れる。 「中には、映画さながらのようなこともあるけど、全部本当だぞ」 久遠は話を続けるジャックへ、解体し終えたチキンや料理、飲み物を渡してやった。 食事と話を一通り終え、久遠はガサゴソとあるものを取り出した。 「食後は兄やん待望のケーキの登場です! ジャジャーン!」 美味しそうなケーキが目の前に現れ、ジャックは目を輝かせて身を乗り出す。 「1カットだけ貰うわ、余裕やろ?」 久遠は、切り分けた後のほぼホールに近い大きさのケーキを、ジャックに差し出した。 「こんな贅沢初めて!」 そう言って、受け取ったケーキを美味しそうに食べはじめるジャック。 口の中に広がるクリームの甘さとは別に、心の中に浮かぶ真実の苦味を感じる。 (「さっきの話は『楽しかったこと』だけ」) 本当は、つらいことも悲しいこともいっぱいあったが、心の中にそっとしまった。 (「話したくないし、聞きたくないだろ? 今が楽しいから、俺はそれでいいんだ」) 嬉しそうにケーキを食べるジャックを見つめ、久遠は笑みを浮かべて言う。 「メリークリスマス、兄やん」 クリームを口の周りにつけたままの笑顔で、ジャックも返す。 「メリークリスマス!」 たまには野郎二人でクリスマスパーティーも悪くない。
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