●『幸せで温かな時間』
紅羽と華が二人で一緒に住み始めたのはつい最近のことである。共に生活を始めて迎える、初めてのクリスマスに、二人はいつもより張り切ってパーティの準備に勤しんでいた。 「華、そっちの食材取ってくれないか?」 「……えと、これ……かな?」 少し広めのキッチンで二人仲良く並びクリスマス料理を作る。そんな些細な事が今の二人にはとても幸せな時間に感じられていた。 着々と出来上がっていく料理を皿へと盛りつければ食欲を誘う香りが鼻をくすぐる。クリスマスらしく色どりの美しい料理がテーブル上へと並べられていった。料理から上がる白い湯気は出来たてほかほかの証である。 そして最後に二人が作り始めたものは、もちろんアレだ。 「クリスマス、だもの……ね」 「ま、ケーキはツキモノ、だよな」 レシピ本を開き目当てのページを確認する。それは二人で作る甘い甘いドーム型クリスマスケーキ。 あらかじめ焼いておいたふっくらとして美味しそうなスポンジを切り、ラップを敷いたボールへと敷き詰めていった。その上にはトロトロのバニラカスタードとイチゴのムースを二段に敷いて、スポンジで蓋をする。冷蔵庫に入れるとそれはドーム型に固まった。 ここまで来れば完成まであと少し、しかし油断はできない。ここで下手をしたら折角のケーキが崩れてしまう。 二人は冷蔵庫から取り出したボールを逆さまにし手を添えると同時に持ち上げる事にしたようだ。 紅羽は華へとアイコンタクトを送ると緊張した面持ちで優しくゆっくりとボールを持ち上げていった。すると、そこには綺麗なドーム型のケーキが姿を現した。 二人は顔を見合わせると上手くいったと喜んだ。あとはこれにクリスマスらしい飾りを施すだけだ。 華が丸いケーキの上へとたっぷりの生クリームを塗っていると紅羽がイチゴの入ったボールを片手に華へと話しかけてきた。 「華、味見するだろ? ほら、あーん」 紅羽が手にした真っ赤なイチゴを華の口元へと持っていく。 「う、うん……」 紅羽の突然の申し出に華はほんのり頬を紅く染め、受け取ろうと小さく口を開いたが大きなイチゴは華の口に入りきらなかったのだろう、華は可愛らしくそっとイチゴへと齧りついた。口の中に広がる甘酸っぱいイチゴの味。 「甘かったか?」 「うん……! とっても……」 イチゴも美味しかったが、こうして紅羽に食べさせて貰うのが華は嬉しかった。ほんわかと幸せそうに微笑む華に紅羽は心を癒されつつ、手元に残ったイチゴをぽいと自分の口に放り込んだ。 「く、紅羽くん……?」 紅羽の行動に華は途端に顔を真っ赤にさせた。 「あ……ダメだったか? 悪ぃ」 そう謝る彼に華は小さくふるふると顔を振った。その愛らしい姿に紅羽の口元が緩む。 (「キスしたいな」) その時、華へそんな想いを抱いていたのは紅羽だけの秘密だ。
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