●『- Sinful night -』
聖なる夜を告げる、静寂。 冷たい風が吹く中、どれだけの数の人間が、友や家族……そして愛する人との温もりを感じていることだろうか。 この夜空の星の瞬きを眺め、今夜もまた、月の光を浴びて、人々は祝福の言葉を交し合うのだろう。 そう、『メリークリスマス』と。
聖夜の喧騒より離れた地にて、二人の男女は寂れた教会の中に居た。 今宵語る、二人の間に言葉はいらない。 これより行なわれるは、夜の一族による神聖で邪なる儀式。 赤き薔薇に魅入られた純白の鈴蘭は、月の妖光の下、穢れし荊に包まれるのだ。
思い出されるのは、いつか見た過去の記憶。 深紅の眼差しで、彼は……セレエル・ベディナン(忘却されし深森の血族・b69497)は、そっと手を差し伸べた。 「貴方に儀式を受けて欲しいんです」 セレエルはそのまま、言葉を重ねる。 「私の我儘ですね、愛する人に夜の一族になれなんてこと……」 その言葉はすぐ遮られた。 差し出された手に、しなやかな手が重ねられたのだ。 琥珀色の光を携えた瞳の乙女……西条・霧華(真従属種ヴァンパイア・b53433)は答える。 「あなたと……心以外でも繋がりを持てるなら喜んで」 その瞳の色に、恐怖は一片も無かった。迷いもなく、ただ一途に。 力強く引き寄せて、セレエルは霧華を抱き締めた。 けれど、その手は僅かに震えていて……それを書き消すかのように、強く抱きしめた。
ここにあるのは、あのときの約束を……契約を果たす為の場。 常人には背徳とも、狂気とも受け止められかねない、二人の想いが交錯する。 ……罪深く、されど純粋な。 月明かりに照らされるのは、二人の重なり合う影。 聞こえるのは、互いの息遣いと。 間近に感じる鼓動。 触れなくても聞こえなくても、そこにいるだけで、手に取るように感じられる。 この時間も時期に終わりを告げる。 けれど、長く続いて欲しいと願うのは……もうその心も体も、全て闇に見初められてしまったからだろうか。 神が生まれた日に、闇に堕ちる事の罪深さを、主は許してくれるだろうか?
乙女の心に残る悲愴の追憶を埋めるのは、少年の棘による紅き傷痕。 少年の心に根付く夜の孤独を明けるのは、乙女の血による儚き散華。
純白の鈴蘭は散りし後に、緋色の実を生らす。 それはまるで、己を包む真紅の薔薇に紛れるかの様に……。
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