●『2人だけのクリスマス』
知人友人を自宅に招いてクリスマス鍋パーティーを開いた後、青葉と鴻之介は二人で後片付けをしていた。 パーティーは仮装して参加という設定だったため、鴻之介はサンタ帽子にサンタの上着、青葉はトナカイカチューシャにニットワンピース姿だ。 パーティーが終わり、後片付けを進める二人とも脱ぎかけであるが、まだパーティーの時間の楽しかった余韻が残っている。 「パーティー楽しかったね」 青葉はうきうきとした口調で鴻之介に話しかけた。 「……うむ」 鴻之介は後片付けを進めつつ、青葉に応じる。 「来年もみんなで集まろうね」 「……うむ」 「……――」 うきうき感が残る青葉に対し、鴻之介の返事は生返事というか空返事というか。 そんな鴻之介の態度にちょっとばかりむぅ、となって青葉は振り返る。 空返事ばかりの鴻之介に、何かひと言言おうとしたしころ――ふいに、唇が重ねられた。 青葉は「え」と思う。 鴻之介の灰色の瞳が青葉をとらえ、ニコリと笑った。 (「悪友達とバカ騒ぎをするのも楽しかったが……」) ――やっと二人きりになれたという気持ちも拭えなかった。 鴻之介はその気持ちのまま、流れるように行動に移す。 愛しむ気持ちをそのままに、鴻之介はそっと青葉の頭を撫でた。 「――……」 キスをされた、と自覚した途端青葉はかぁっと顔を赤く染めた。 今さらながら、青葉は両手でかぱっと唇を押さえる。 今も柔らかく黒髪を撫でる鴻之介を睨むが、上目づかいでほんのり目が潤んでいる青葉の状態に鴻之介は口元の笑みを深めるばかりだ。 狙ったわけではないが、悪戯が成功したような現状に鴻之介は笑った。 「メリー・クリスマス」 鴻之介は唇を押さえたままの青葉に悪戯っぽく笑ったまま、告げる。 むむむと眉間にシワを寄せていた青葉だったが、鴻之介の笑顔を見ているうちにその眉間のシワも緩む。 「……メリー・クリスマス」 繰り返した青葉に鴻之介は笑みを浮かべたまま、抱き寄せる。 ――仲間達で騒ぐのもいいが、二人きりで過ごすのもいい。 二人だけのクリスマスも、いい。 青葉と鴻之介はもう一度、唇を重ねた。
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