●『重ねゆく温もり、重ねゆく思い出』
クリスマスイブの夜。 エルレイと市松は街灯りの満ちた道を歩き、かたわらのクリスマスツリーを見上げる。 夕方から降り始めた雪が、電飾に彩られてきらめきながら落ちてくる。 積もったばかりの足下の雪はふさふさで、踏み心地はいいのだがやはり寒い。 普段は防寒対策カンペキなエルレイだが、今日は忘れてしまった。 見慣れた長身……大好きな市松の姿を見かけ、マフラーも手袋もつけないままに急いで飛び出してしまったのだ。 (「ん――」) 少女の目の前には市松模様のマフラーがふらふら振れていて、半ば無意識にその片端をきゅっと掴む。 (「……中学生になっても、この癖は変わらなかったなー」) マフラーの持ち主である市松は、なじみの少女の仕草を横目で見つつ、不思議な感慨にふける。 「端っこ巻くのは構わねぇけど、全部外すなよ。気ぃ付けろよ」 「え? ばれちゃった……」 「ばれるっつーの。今度はちゃんと着るもん着て来いよー、エル」 「う、うん……、きゃっ」 市松が突然に歩きだし、マフラーで繋がっているエルレイも引っ張られる。 少女が見上げれば、クリスマスツリーを見ながら歩く市松。 だが、その表情は、ツリーそのものを見ているのではないような気がする。 (「……しかし、ずいぶん背が伸びたな」) 「……何考えてるか、松様?」 あれからどれ位過ぎただろう? 昔の出来事に思いをはせて歩みが遅くなった市松に、エルレイが訊ねる。 「ああ――」 二人はお互いの過去に話を交わす。 戦い、遊び、笑い、泣いて……。 指折り数える度に、思い出は重なっていく。 ――幸せな時間は、何故こんなに短いのだろう。 そろそろ帰らなければいけない時間だ。 「松様、一緒に……? 夜は、ちょっと怖い……」 返答代わりに差し出されたのは、少女のものよりずっと大きな右手。 差し出す手にこめた想いは届いたか分らないけど、お互いの温もりは確実に伝わってきた。 「帰ろう、エル」 二人でゆっくりと、冷えきった帰路をあたたかな手を繋ぎ歩くのだった。
| |