●『クリスマスイブの夜に』
電飾に飾られたモミの木と、暖かな橙色の間接照明が部屋を照らしていた。 テーブルの上ではキャンドルが揺れ、その光にこんがりキツネ色のチキンが輝いている。かと思うと、中央には大きなデコレーションケーキが置かれていた。 ケーキを挟んで向かい合って座る二人が、プレゼントの包みをお互いに差し出す。 「メリークリスマス! 翠先輩」 「沙希さん、メリークリスマスです!」 包みを交換し笑顔も交し合う。視線を合わせながら受け取った包みを開けていく。 先に歓声をあげたのは沙希だった。包みが解かれ、中から綺麗な箱が出てくる。蓋は透明で、黒絹に赤く輝く糸で護りの印を刺繍した手袋が姿を見せる。 「わー、なんて素敵な手袋! ありがとうございます!」 沙希は丁寧に手袋をとりあげ、その肌触りに頬ずりをする。手袋をはめると翠に何度も見てもらった。 続いて、翠も驚いた声をあげた。 「あら、これはもしかして」 「えへへへ、先輩のためにちょっとがんばってみました! 気に入ってくれると嬉しいです♪」 照れたように沙希は付け加えた。翠が受け取った包みからは、手作りの本が姿を現した。外箱まで備えられた本格派で、翠はその表紙をそっと撫でる。慈しむように、優しく一ページ目を開いた。 「早速、読ませてもらいますね」 にっこりと顔をあげる翠に、沙希の胸も幸せで満たされた。
しばらく翠が本を読み進め、静かに柔らかい時間が流れた。 翠が半分くらいまで本を読み進めたところで、沙希が話しかける。 「でも、もし本当に物語の通り私が呪いにかけられたら助けてくれます?」 翠は顔をあげると、 「もちろんですっ。今の沙希さんがいちばん大好きですからー♪」 満面の笑みで答えるのだった。 自分で聞いておきながら、沙希はその表情に思わず顔が赤くなる。 照れてはにかむと、テーブルの上に置かれたビンに目がいった。 「さて、折角のご馳走ですし、一緒に食べましょ!」 沙希はブドウジュースにさっと手を伸ばし、ポン、と良い音を立てて封を解いた。二つのワイングラスに注いで、一方を自分が、一方を翠へと差し出す。 「乾杯♪」 グラスを受け取った翠が、沙希のグラスに優しく重ねあわせる。カチン、と小気味良い音がなり、甘酸っぱい爽やかな味と香りが二人の口の中に広がった。 乾杯を終えた沙希は早速フォークを持ってケーキに向かう。 「あ、でもケーキ少し大きかったかな?」 切り分け方を考えていると、翠がざくっとフォークを突き立てて、一口をすくう。次には沙希の口元に向かって、 「あーん、ですよー」 と差し出すのであった。
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