●『*…一年越しの返事…*』
リリエルが卒業してから、そして、蔵人の告白から1年近く、時が流れた――今日はクリスマス。 (「ずっと返事出来ないままでいたのだけれど……」) リリエルは、胸の前に手を置き、強く握りしめた。緊張の隠せない彼女の前で、蔵人はやんわりと微笑んで見せた。 「死地に臨む度、これでお前と会えなくなるのは嫌だって思った。今回の札幌でもな」 「……そう、ですか」 「少しでも一緒に居たい、そう思っているんだ」 嬉しい、と思っているのに。何故か、素直になれない自分がいる……照れ隠しをするように、リリエルは口を開いた。 「でも、私は守られているだけのお姫様じゃないですよ? 貴方に捉えきることが出来るかしら?」 本当は、こんなことを言いたいわけではない。それを分かっているのか否か。蔵人はその微笑みを崩さなかった。 「守る守られるじゃない。一緒に歩けりゃいいさ。俺はいつでも……ここにいるから」 蔵人はリリエルに向けて、手を伸ばした。それに応じて、リリエルが伸ばした手は、言えない言葉の代わりなのかもしれない。
――――捕まえていて。 ――――離さないで、守っていて。
ずっと傍らで、その温もりを感じていたい――視線と視線が、優しく交わる。 「これからも一緒にいたい。やっぱ俺、お前が大好きだから」 2人の手がそっと重なって。その距離がゼロになったのは、自然な成り行きか――。 「……恋人になっても元気をずっと分けてもらっています、感謝、ですね」 金の髪を持つ、1組の男女を純白の雪が鮮やかに魅せている。リリエルが蔵人を見上げ、もう一度、2人の視線が交わる……少し、恥ずかしくなってしまった。
「クロード、見て下さい。これ!」 「鈴? ……へえ、面白い仕組みになってるんだな」 「はい、クロードの分はこっちですよ」 その後、入った土産屋で2人が手に取ったのは『比翼透彫鈴』。翼を模った装飾が施されたこの鈴に刻まれているのは、リリエルのものに右の翼、蔵人のものに左の翼――2つを合わせて初めて、一対の翼になる。 ちりん、と鈴の音を響かせ、リリエルは笑った。 「帰りましょっか? ここは寒いですよ」 「はは、何だか普段と変わらないな」 「ふふ、そうですね……でも、良いんじゃないですか?」 比翼透彫鈴の装飾が2つ合わせることで完成するように、リリエルと蔵人も、2人だからこそ出来る何かがあるのかもしれない。 とはいっても、恋人になったからと言って、急に何か変わるわけではないだろう。特別なことをするわけでもないだろう。 きっと彼らは、これからも同じように過ごすに違いない――そう、これまでと同じように、2人一緒に。
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