●『ちいさな家族を迎えて』
ここは、涅雅の家ともいえる、妖精郷の小さな砦たる屋敷の一室。 ――みぃ。 涅雅の腕の中から可愛らしい声を発したのは、雪のように白い仔猫。
毎年恒例、学園のクリスマスパーティ。 涅雅とつかさは、里親募集も兼ねた猫カフェで穏やかな時間を楽しんだ。そこで、ずっと涅雅から離れなかったのがこの仔猫だ。二人はそのまま連れて帰ってきて、馴染みのソファで寛ぐ。 ――みぃ。 「本当に涅雅に懐いてしまったな」 つかさは微笑みながら、涅雅の腕の中の仔猫を優しく撫でる。すると仔猫は気持ち良さそうに目を細めご満悦だ。 「俺様を選ぶとは、中々だな」 口を開く涅雅の視線は、優しげに仔猫を見つめる。 「名前を付けなきゃね」 くすりと笑ったつかさの一言で、「そうだな」と涅雅は頷き、 「クロックなんてどうだ?」 得意げに思いつきを口にした。 しかし、 「略すと白猫らしからぬことにならないかなあ」 つかさは異を唱えた。 犬や猫……人間もだが、よく略した呼びやすい愛称で呼ばれる事が多く、『クロック』を略して『クロ』と呼ばれるのが容易に想像できる。白猫なのに『クロ』。 愛くるしく丸い瞳を輝かながら興味深そうに二人の会話を聞いている仔猫。やはり、自分がどんな名前は気になるのだろうか。 「ノエルとか、シュクレ……どうかな」 色々と思案したつかさが仔猫を撫でながら口を開いた。 つかさに撫でられ満足していた仔猫は、何か思い立ったのか、涅雅の肩によじ登っている。 「俺様が考えた方がいいじゃねえか。なあ?」 涅雅は、うっかり落ちてしまわないように片手で仔猫を支えながら同意を求めると、 「みぃ」 仔猫は、涅雅に名前をつけて貰う事に賛成だとでもいうように小さく鳴いた。 「この子が気に入ったのが一番だよね」 降参だと言わんばかりに、つかさは小さく笑んで、仔猫を撫でる。
二人にだけ舞い降りた雪のような仔猫。 涅雅とつかさにホワイトクリスマスをプレゼントした仔猫は、名前をプレゼントされた――。
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