●『お家に帰ろう』
「これ美味しそうだよ」 日向が瞳を輝かせながらパメラに笑いかけた。 「どれ……?」 パメラは日向の指すチーズに近付いて、プライスカードと一緒にある原材料や説明に目を通す。 ここは、輸入オーガニック食材専門店。美味しそうな生ハムやチーズ。体に良さそうなドレッシングやジュース、ワイン、テーブルソース等様々な食材が並んでいた。 可愛い恋人とクリスマスを楽しむ為の食材を一緒に買い出しにきたパメラ。その軍資金の為に珍しくアルバイトまでした気合の入れよう。普段は亡き父の遺産で自堕落に暮らしているのにも関わらずだ。日向への愛が感じられる。 店を出ると、陽が暮れ始め、雪が降り出していた。 「あ、雪……」 「ホワイトクリスマスなんてロマンティックねぇ♪」 空を見上げて呟いた日向に、買った食材の入った紙袋を抱えるパメラが微笑む。 「そうだね……あ、それ持つよ」 パメラを見上げた日向が申し出た。 「……重いわよぉ?」 「僕だって一応男だもん」 少し遠慮がちに苦笑したパメラに日向はにこっと笑う。 「うん、じゃあお願いねぇ♪」 パメラは抱えていた紙袋を日向に渡した。その紙袋を受け取った日向は、想像より少し重かったようで、一瞬目を少しだけ見開く。 「大丈夫? だから重いって……」 「大丈夫大丈夫。このくらい何て事ないよ」 再び、パメラを安心させるように元気に笑った。 (「……頑張ってくれちゃって……頼もしいなぁ……」) 「日向クン流石だわぁ♪」 「へへ♪」 寄り添って歩く2人に笑顔が広がる。 「そういえばパメラ、アルバイトしたんだよね? どうだった?」 ふいに日向が尋ねた。アルバイトができる年齢ではない日向としては、そこも気になるのだろう。 「人に『いらっしゃいませー』なんて言ったの初めてだわ」 パメラは、くすっと笑いながら答えた。 (「そりゃ、慣れない事で大変だったけれど……」) 横の日向をちらりと見遣る。 「? どうしたの?」 「ふふ、何でもないわよぉ」 日向はきょとんと首を傾げて不思議そうな顔をしたが、にこっと元気に笑った。その笑顔につられるようにパメラも微笑む。 (「この笑顔の為だもの」) 「うん。じゃあ、寒いから早くお家に帰ろう」 日向が元気に笑い、少し足早にパメラをリードするように歩き出した。
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