●『雪女だけど・・・・』
盛大なクリスマスイベントが終了し、恋人たちはそれぞれの帰路についていた頃、雪のちらつく星空の下でまどかは一人星流を待っていた。 「ん?」 星流が来たのかと思い、そちらを向くと自分と同じ年齢ぐらいの仲睦まじい男女が目に入った。 寒そうにしていた女の子に、彼氏と思われる男の子が自分がしているマフラーを女の子にかけてあげている。 女の子の顔はパッと明るくなり、そのまま二人肩を寄り添いあい去っていった。 「何か……羨ましいな……」 心の中で思いつつ、その恋人たちを見る視線は憧れを抱いていた。 しかし、まどかは雪女。 どれだけ羨望の眼差しで見ても、寒さに適応してしまう自分には無縁であると感じてしまい、寂しさが募る。 寒くはない、だが、心が寒い。 気温が寒いのではなく、心が冷たくなって寒いと感じ、ため息とともに視線を落としてしまった。 「ごめん、待った?」 そこへ、小走りに駆けて星流がやってきた。だが、彼を待っていた待ち人は異様に暗い。 「まどか?」 俯いたまどかの顔を覗き込むように様子を伺うと、ぷいっと視線をそらされた。 やはり待たせたのかと星流が心配していると、それを感じ取ったのか、まどかはぽつりと呟く。 「別に何でも無い」 いつもと同じ声色、とはいかなかった。 少し落ち込んだような。暗く沈んだような。 そんなまどかの様子に、星流は無言で自分のマフラーを彼女にかける。 「っ!」 予想外の行動に、まどかは顔を紅潮させ、胸の高鳴りと戸惑いをあわせたような目で星流を見つめた。 星流は彼女の落ち着かない様子を見て察したのか、まるで当然のように言った。 「何かお前、寒そうに見えたからな……」 パートナーとして当たり前の行動をしたまでだと言いたげに苦笑し、そして歩き出す。 「ほら、帰るぞ」 その言葉に、我を忘れていたまどかは星流に駆け寄った。 そして自分の腕を強引に彼の腕に絡めて寄り添う形をとる。 今度は星流が戸惑い、あわてて隣の彼女に問いかけた。 「お前っ」 「私……雪女だけど、こうやって暖めてあげる事ぐらいならできますよ」 嬉しそうな笑顔を返したまどかは星流に絡みつくように身を寄せる。 ぎゅっと、密着した恰好に星流は恥ずかしがってまどかの方へ自分から身を寄せることはなかったが、まどかを振りほどこうとはしなかった。 彼女のしたいようにさせてやろうと思い、初々しい恋人のような感覚に浸りながら帰路についた。
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