●『聖夜の舞踏会』
楽しい時間、というものはあっという間に過ぎ去ってしまうものだ。涼介と鏡華の過ごした舞踏会の時間も、気が付いてみればあっという間だった。しかし、慣れない踊りは想像以上に疲れるもので二人揃って椅子に腰掛けると、そのままぐったりとしてしまった。 「鏡華、大丈夫? 疲れてない?」 本当のところは涼介自身も少し疲れていて、冬の空気がありがたいくらい暑い。ネクタイを緩めてしまいたいところなのだが、鏡華が締めてくれたのでそれももったいなくて服のボタン外す位に抑える。自分よりも相手を気遣うその優しさが、彼の魅力でもある。鏡華もせっかくなので、その優しさに甘えさせてもらう。 「あ……それは……」 涼介の目にとまったもの……それは、鏡華のつけているネックレス。それは以前涼介が鏡華に送ったものだ。その時の事を思い出すと、何とも恥ずかしい。思わずそっぽを向いて頬を掻きつつ、真っ赤になってしまう。それは鏡華も同じであったようで、やはりしちょっと照れていた。 「まだぶかぶかなのでちょっと待ってくださいです」 そう言って、ネックレスの指輪に指を通して見せる。確かに、まだぶかぶかだ。でも、前よりぶかぶか具合が少なくなってる気がして。 時間の経過をしみじみと思う。目を閉じれば、鏡華と二人仲良く過ごした思い出が次々と想い起こされる。 ――ぽすん。 そっと、肩を寄せる鏡華。そのまま、彼にしか聞こえない小さな声でささやく。 「涼介さん、大好きですよ」 鏡華の言葉に、そっと手を握り応える涼介。 「……僕も大好きだよ、これからもずっと」 その手の暖かさは、そこが確かに自分の居場所だと感じさせてくれる。本当は、言葉など必要ないのかもしれない。お互いに、好きだと言う気持ちは本物で、しっかりと伝わっているのだから。 しかし、それでも言葉は欲しい。しっかりと感じ取れることではあっても、その声が聞こえると言うこと、はっきりと言ってくれることが何より嬉しいのだ。 真冬の空気は冷たいが、それをまったく感じさせない安らぎの時間が、ゆっくりと過ぎていった――。
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