矢坂・孔明 & 雛森・イスカ

●『黄金の時間』

 パーティー会場で、そこかしこに咲いている。談笑、いう名の花が。
「今年のドレスも良く似合っているけど……イスカさんのお見立て?」
 パーティーの雑用をしつつ、孔明もまた、会話の花を咲かせていた。
「ふふ、ないしょです」
 孔明に対し、イスカはそう言って優しく微笑む。
「今年も色々あったけど……来年も、今年みたいな年になるのかなぁ?」
「どうでしょう……けれど、今年よりも、もっと良い一年になってくれると良いですね」
 イスカの言葉に、孔明はうなずいた。そう、来年はもっと良い年に……もっと彼女が微笑むことができる一年に……なってほしい。

 やがて、時間は経ち。
 照明の煌々とした光が徐々に暗くなり、消えていった。
 いまや会場を照らす光は、わずか。暗がりに差す夕焼けと、キャンドルの炎のみ。そして……ラストダンスの音楽が響き始めた。
 会場には、多くの紳士淑女が、互いのダンスパートナーとともに、ダンスに興じている。
 孔明もまたイスカへと、ダンスの申し込みをしていた。……頬が熱い、まるで自分も炎になってしまったかのよう。
「……一緒に、踊ってもらえませんか?」
 意を決し、手を差し伸べつつ申し出た孔明。
 彼の言葉に、イスカは……彼の手を取ることでそれに応えた。彼の、熱く火照っている手を取ることで。
「大丈夫ですか? 顔、赤いですよ?」
「……キャンドルのせいですよ」
 孔明はそう笑って誤魔化そうとしたが、少し苦しい言い訳だったかもしれない。
 だが、ダンスが始まると……そんな事は、どうでもよくなった。

 イスカの、彼女のリードで、孔明はなんとかダンスを踊れてはいる。
 最初の頃に比べれば、技術は上がっているが……やはり、まだまだ。
 会場のキャンドルが、一つずつ消えていく。その幻想的な光と、目前の幸せそうな少女の笑顔……。それらを目の当たりにして、気を取られないなどあるだろうか?
 イスカは再び微笑んだ。そしてそれを見るたび……己の顔が熱くなるのを、孔明は感じ取っていた。

 最後の明かりが、消える。その瞬間……孔明を支配しているのは、イスカの姿。
 イスカの姿に目を奪われ、心を奪われた彼は……心、ここにあらず。
 いや、イスカから話しかけられたわずかな時間。彼女の事で、心がいっぱいになっていたのだ。
「……ラストダンスも、終わってしまいましたね……」
 残念そうにつぶやく、彼女の姿。
 やがて、孔明は……自分の手が動き、彼女の手を握ったのを知った。
「……このまま、一緒に……」
「え?」
 握った手の力が、少しだけ強くなる。
「……このまま、一緒に……皆のところまで行っても……いい、かな……?」
 そして、「灯りも消えているし」と、言い訳のように付け加える。
「いいですよ」
 イスカはそれに頷き返してくれた。
 孔明は、実感していた。自分の手が、かなり、かなり熱くなっている事を。



イラストレーター名:杜乃