●『二人だけの秘密』
普段の庭園も十分美しいものだが、今宵の庭園はクリスマスカラーに染められ、その美しさを更に引き立てていた。 色きらびやかに飾られたその薔薇庭園の主役は一組の男女。雪の様に白いショートブロックコートに一輪の青い薔薇を挿した龍麻と、青空の様に澄んだダンスドレスに白いケープを羽織った友梨の二人である。
「あれ、此処だと思ったんだけどな……?」 夜の庭園を行ったり来たりするランタンの灯り。 龍麻が自分へのプレゼントを庭園内に隠したという事で、あちこち探す友梨。無邪気に宝探しをしている様子から、とても楽しそうだという事が一目で解る。 (「ちょっと趣向を凝らしてみたけど、成功だったかな」) 彼女の様子を微笑ましく見守る龍麻。 やがて彼女が自分の方に向かって歩いてきた……見つけたのかと思ったが、違うようだ。 「中々みつからないので、何かヒントとかあります?」 「そうですね……今日は聖夜ですし、星を見ながら探すと良いかもしれませんよ?」 笑顔でヒントを求める彼女に、同じく笑顔で夜空を見上げながら答える龍麻。 ヒントを得た友梨は再び宝探しを始め……ふと、星の輝きに混ざって輝くハート型のクリスマスボックスを見つけた。 恐らくこれに違いない。箱を手に彼の元へ駆け寄り、目の前で開けてみる。 「わぁ……これ、手造りですか?」 中に入っていたのは宿り木が描かれた少し歪なシルバーリング。龍麻が彼女の事を思って作った、世界でただ一つの一品だ。
「……友梨さん」 彼女が中身を確認すると同時に、龍麻は覚悟を決める。 「俺は貴女が好きです。鈍感で、朴念仁ですが、この想いだけは本物です。どうか……」 瞳を閉じて一呼吸間を空ける龍麻。その間に彼女への想いを込め、ゆっくりと瞳を開く。 「俺と、付き合ってもらえませんか?」 自分だけを見て真剣に告げられた彼の告白に、友梨は驚きと胸の高まりを抑えられなかった。 告白が進むにつれ目を丸くしていたが、彼の言葉一つ一つを心に染み込ませた後、同じく真剣な表情で彼を見つめる。 「……一つだけ、約束して頂けませんか?」 嬉しさと同時に湧き上がる不安。それを隠すように友梨は言葉を続けた。 「……どうか、私を離さないで」 差し出された左手は少し震えている。決して寒さだけの所為では無い。 気持ちを告げた以上、龍麻がすべき事は唯一つ。暖めるようにその左手を取り、ゆっくりと指輪を嵌めてゆく……。 「決してあなたを離しません。俺の魂に誓って!」 繋いだ手を決して離しはしない――周囲の薔薇より美しく、力強き誓いが今ここに結ばれたのだった。
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