●『雪薔薇が咲く頃』
「たろー……」 どこか寂しそうなエルレイの目の前には、ひたすら料理を食べ続ける太郎の姿。せっかくのパーティだというのに、とエルレイはため息を付いた。 元々、太郎は「食べ物目当てで参加した」とは言っていたものの、これはどうかと思う。 「まあ、たろーらしいね」 仕方ないな、と肩をすくめ、エルレイは温室の外に出ていった。 「うっ、少し寒くなってるね……」 びくっ、とエルレイは身体を震わせた。それも当たり前であろう。彼女はパーティ用の薄手のドレスをまとっているだけなのだから。 温室の温かさを懐かしみつつ、エルレイは1人寂しく外を歩こうとしていた――突然、大きめのコートを掛けられたのはそんな時だった。 「きゃ……っ」 後ろを振り返ると、先程まで黙々と料理を口にしていた太郎の姿。どうやら、追いかけてきてくれたらしい。 「まあ……少し、その辺りを歩いてみないか」 「たろーってば……」 少し照れくさくなってしまったが、暖かいコートは嬉しい。エルレイはぴったりと太郎に寄り添い、2人で一緒に歩き出した。 「綺麗……」 辺りは色とりどりのクリスマスツリーで彩られている。クリスマスツリー巡りをするのも、このガーデンパーティの醍醐味だった。優しく辺りを照らしてくれるランタンを片手に、2人はツリーを見て回った。ツリーには、赤、青、黄色、白――色とりどりのリボンで可愛らしく飾られた、クリスタルハートのリボンボックスが吊り下げられている。 「ねえ……」 ぴたり、とエルレイの足が止まった。彼女の目の前には、緑のリボンが付いた、プレゼントボックス。 「たろー、そこの、緑リボンのが欲しいの」 「これか? ちょっと待ってな……」 エルレイが指を指した、緑のリボンが愛らしい箱。中には、白薔薇と薄紫のスターチスを閉じ込めた小さな硝子のオルゴールが収められている――実は、エルレイが太郎の為にと、選んだものだ。 「俺もエルレイに選んだ物がある……探さないか?」 「……うん」 しばらく2人でツリーを巡り、プレゼントを探していた。いくつかかかっていた中の1つを、太郎は手に取った。 「エルレイ、ちょっと」 「ん……」 箱の中から取り出した何かを、エルレイの首に付けてやる――それは、小さな白薔薇のついた銀の指輪がかかったリングトップネックレスだった。 「綺麗……!」 「うん、良く似合ってる。良かった」 今まで、太郎はエルレイに対してアクセサリー類の贈り物はしていなかった。だが、エルレイももう、中学生になる。きっと似合うだろうと選んだものだった。 「メリークリスマス、エルレイ」 そう言いながら、太郎がエルレイの首元から手を放すと、すぐに先程のオルゴールをエルレイに手渡された。彼女は、愛らしい笑顔を浮かべていた。 「メリークリスマス、たろー」 祝福の言葉を交わし合い、2人は仲良く、温室へと戻っていった。
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