●『Stille Nacht』
どきどきどき。 高鳴る胸は夜雲も結梨もお互い様で。 高層マンションに住まう夜雲の、己の心を映すかのような部屋に入れるのは、白、黒、そして彼女のみ。 浮き立つ心を静かに見守る星の光、月の光。 きらきらきら。 聖なる夜のツリーに松ぼっくりを飾り付ける。 淡い蝋燭の光に照らされて、見詰める瞳も宝石のようなかけがえの無い煌めきに揺れていた。 ケーキを食べつつ、夜雲は考える。 結梨の言葉で初めて考えさせられたのだ、自分を大事にしなくてはと。 それは自分の為。 それはそのまま彼女の為。 そしてつまりはお互いの為。 見つめ合えば自然と微笑が零れる。 くすくすくす。 照れ隠しもあるかもしれない。 『Shall we dance?』 緊張しつつも幸せにほぐれていく気分。 差出された手を取り、また微笑んで。 二人だけの可愛いツリーも照らす清かな光で、幻想的な淡い明るさをた湛えた室内で、泳ぐように踊る。 ひらひらひら。 ほっそりした脚がのぞく結梨のスリットドレスに見惚れつつ、足を踏まぬよう気を付けねばと夜雲はワルツのリズムと告げるタイミングを計っていた。 くるくるくる。 楽しくて心まで舞い踊る。 結梨の耳元に、やがて夜雲から一言が告げられる。
「好き」
加えてキスを落とされれば不意打ちに赤くなる頬の熱も、溢れる愛しさも、満ちてくる幸福感も、隠せない。 合鍵をもらってから初めて彼の部屋に入ったけれど、こうして受け入れてくれることはとても嬉しく、けれど何だか切ない。 貴方の心に居てもいいのなら何だってするから、だから、と結梨もお返しに。 (「あいしてる」)
口に出さず、でもどうか伝わってと気持ちを込めた口付けを彼の唇に。 どうか、伝わって。 どうかどうか、貴方に沢山の彩が、満ちますように。 この部屋みたいなモノトーンじゃなくて、白と黒と、そして私も……。
ワルツのリズムで二人が空間を巡るたび、指に飾った指輪が星のように煌めく。 赤い石と青い石。 互いを象徴するかのような彩は月光に包まれる夜雲と結梨の聖なる夜を祝福しているかのようだった。
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