●『炬燵と鍋とクリスマスケーキ』
クリスマス、それは年に一度の特別な日。町はこの日の為に飾り立てられてキラキラと輝き、恋人たちはそれを共に眺めて、うっとりとため息をつく。 そんな聖なる記念日に、 (「やべー、こたつマジ温かい。俺、こたつに住みたい」) 悠治はぬくぬくとくつろいでいた。居心地の良い部屋の中、身も心もとろけすぎて、もはやこたつの一部と化している。 「去年のイルミネーションも素敵でしたが、こうしてのんびり過ごすクリスマスも良いですね」 と、畳を踏む軽い足音と共に、エプロン姿の環奈が部屋へ入ってきた。下ごしらえをすませた鍋を、クリスマスケーキの横に据えたコンロに、ごとりと乗せる。 悠治の目と、悪びれなく悠治の頭上に陣取った愛猫の目が、一斉に鍋を向いた。 「やっぱり冬は鍋だよな?」 「そうですね。冬のお鍋は心も身体も温かポカポカになれますし……」 環奈も頷いた。そして畳に膝をつき、かいがいしく鍋の準備を始める。 「……闇鍋にするか」 コンロに火が入ると同時、思いつきを口に出してみる悠治。 「闇鍋、ですか?」 環奈はきょとんと小首を傾げ、目を瞬いてちょっと黙った。闇鍋とはどのような鍋なのだろう。多分変わった鍋な気がするけれど……今からでも準備できるだろうか。等々、多分そんなような事を考えている。 「いやいや、冗談だから」 「あっ、冗談ですか?」 膨らんでゆく環奈の疑問を、悠治の一言がぱちんと割った。 食卓を挟んで行うたわいないやりとりに、心が落ち着く。本来なら今日の主役であるはずのクリスマスケーキは、そっと隅に寄せられて、食事ができるのを待っていた。 (「みーちゃんとこうして一緒に過ごすのは、5年目なんだなぁ」) 悠治は胸の内でぼんやりと、そんなことを想う。 クリスマスという大事な日を、二人で共に過ごしているんだぞ! という、どこか気負いめいたときめきも、今はそこまで感じない。 いつの間にか、一緒に過ごすのが、当たり前みたいになっていた。 「今年でひーちゃんと一緒のクリスマスも5回目、でしょうか?」 すると、悠治の思考を丸々なぞったかのような台詞が聞こえた。 見れば、アクをすくう手を止めて、環奈がこちらに微笑んでいる。 「もう5年なのか、まだ5年なのか分かりませんが……」 穏やかに言う環奈は、感慨深そうでもあり、たわいない会話の続きをしているだけのようでもあり……ただ、それを聞くうち、悠治の口元にも自然と笑みが浮かんでいた。 「まぁ、どっちにしてもこれからも宜しく頼む」 「はい、これからもよろしくお願いします」 ぐつぐつと、温まった鍋から、食欲をそそる香りが立ち上る。 クリスマスケーキは、もう少しだけお預けとなりそうだった。
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