●『ストップ・ザ・プロポーズ』
ショッピングをして、イルミネーション見て……最後に、レストランに行く。 そんな普通のクリスマスデートを進めながら洋子は一つ、気合いを入れてきていた。 (「いい折だし――」) レストランでのディナーの最中に指輪の箱を出して、プロポーズしようと。 洋子の気合いは服装にも表れていた。 コートの下はシンプルなドレスだ。コートは店に預けて席につく。一方の一花はドレスコードに引っかからないレベルで、適当なモノだったりする。 向かい合って、談笑しながら食事を楽しんで――ふと、沈黙が落ちてきた。
流れるレストランの中の静かな音楽と、周りの密やかな談笑。 洋子はコクリと息を飲みこんだ。 「実は話が……」 そっと、手の中に収めたままの箱を差し出す。 その様子を見た一花が口の中だけで「え」と声を上げた。 「こういうのって給料の三ヵ月分が基本なんだっけ」 そんな一花を見ないまま洋子は言葉を紡いだ。一気に、たたみかけるように続ける。 「ともかく、私と結婚して……」 全てを言いきる前に、一花の手が洋子の手を包んだ。……というか、洋子の手をガッと掴むようにして口を開いた。 「ちょっと待って、それ俺から言うから!」 一花の言葉に俯いたままだった洋子は顔を上げた。 「……今?」 洋子の問いかけに少し顔を赤くした一花が視線を手元へ落とす。 「いや――なんか戦いが激化するらしいからそれが一段落してから」 一花の言葉に洋子は「……する気はあるのね?」と問いかけた。 俯いていた一花だったが、顔を上げた。ふと、口元に笑みを刻む。 「しないと洋子さん泣くでしょ?」 一花の言葉に洋子は「ちょ!?」と声を上げた。がっと体温が上がる。 「泣かない?」 ほんのりと顔は赤いままではあったが、一花は声を震わせることなく問い返す。 「いや泣くけど……」 洋子のほうが声が震えた。尻すぼみになってしまう。 洋子の手を包む一花の手の力が一度強まった。『離さない』と、言葉にする代わりのように。 「――待ってて」 意識せず視線を落とし、俯きかけていた洋子の耳にそんな一花の声が届いた。 ぱっと顔を上げると、一花は笑顔を浮かべている。うん、と口の中だけで洋子は呟きコクリと小さく頷いた。
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